メディア掲載  エネルギー・環境  2020.09.24

猛暑の原因?温暖化の「ファクトフルネス」

日経BizGate 2020年9月18日に掲載

エネルギー・環境

残暑が終わらない。今年は戦後「最も暑い夏」で、8月の平均気温は東日本で平年より2.1度、西日本で1.7度高く、1946年の統計開始から東日本で最高、西日本でも過去最高の2010年と並んだという(気象庁まとめ、8月30日まで)。猛暑の原因を地球温暖化だけに求めるのは、将来の見通しを誤る。国際的な気候変動問題に精通しているキヤノングローバル戦略研究所の杉山大志・研究主幹は「温暖化問題は中長期視点で観測データを分析し、新たなニーズに対応した技術の芽を育てていくべきだ」と説く。


「温暖化で猛暑」は誤解

――8月の東京で35度を超える猛暑日は11日で、23区内の熱中症死亡者は180人を超えました。年々暑さがひどくなるように感じるのは温暖化が急ピッチに進んでいるからではないですか。
 

「全地球レベルでの温暖化は確実に進んでいます。ただごく緩やかなペースで、天候への影響はごく一部です。『日本の猛暑の原因は温暖化』は誤解のひとつと言ってよいでしょう。地球温暖化による日本の平均気温上昇は100年あたり1.1~1.2度で、都市化などの影響を補正すると100年あたり約0.7度になります。子供が大人に成長する30年間の期間では約0.2度で、体感できるような温度差ではありません」  「猛暑の第一の原因は、気圧配置の変化やジェット気流の蛇行など自然変動にあります。まだ記憶に新しい2018年7月の猛暑は、日本や欧州で記録的に高い気温を観測しましたが、北米やカザフスタンは寒かった。地球全体が暑かったわけではありません。国内でも東日本は暑かったものの、北海道や九州南部では猛暑ではありませんでした。日本が地球温暖化のせいで暑くなったのではなく、一部が自然変動のせいで暑くなったのです」

――ほかの原因は考えられますか。

「第2の原因は都市化です。アスファルトやコンクリートが増えると、ヒートアイランド現象が生じます。100年単位では、東京は3.2度、大阪は2.8度、名古屋は2.6度も上昇しました。そのほか、家やビルが建て込むことで風が遮られて暑くなるひだまり効果もあります。水田が無くなるとその周辺では1度くらいは暑くなります」

――台風10の被害も甚大でした。温暖化の影響はないのでしょうか。

「台風のメカニズムについてはまだ明らかになっていません。発生数も、1951年からの統計では増えていないのです。一方、昨年の多摩川や千曲川、今年の球磨川のような水害が起きています。必要なことは、まず十分な治水工事が行われていたかを検証し、適切な防災対策を講じることでしょう。ハード面だけでなくSNS(交流サイト)の活用などのソフト面でも防災機能を高めていくべきです」

AI、太陽電池、二酸化炭素回収技術イノベーション欠かせず

――目先の現象だけ見ていてはいけませんが、温暖化対策は全世界的な課題です。

「その通りです。ただ新型コロナウイルスの影響で疲弊している経済状況で、最初から再生エネルギーのような高コストの技術導入を進めると、日本産業全体の費用対効果がクリアできずに途中で失敗に終わる公算が大きくなります。第1段階として、活力ある経済と汎用目的技術をコアとした科学技術のイノベーションとの好循環をつくりあげ、第2段階でその成果を刈り取る形で、温暖化対策技術のイノベーションを進める迂回戦略が適切と考えています」   

――日本企業が貢献できる温暖化対策のイノベーションにはどのようなジャンルがありますか。

「第1に省エネ。例えば人工知能(AI)です。日本社会はまだまだ無駄なエネルギーを費やしているケースが多いのです。すでに利用者が設定した温度を機械学習し、最適な室内温度を判断する機能を持つ空調システムや、室内の個々の人の体温を測定して適切に温風・冷風を送るような技術が実現されつつあります」  「第2に発電。太陽電池・蓄電池などのケースです。新素材の開発などで、現在よりはるかに高性能かつ安価なものが期待できます。第3は大気中の二酸化炭素(CO2)の回収技術です。これもCO2吸収剤や分離膜などの新素材開発がカギです。いずれも実現のためには裾野の広い科学技術基盤が必要です。スーパーコンピューター、デジタル技術や素材分野などです。新たなニーズも生まれるでしょう」

安価な電力必要、火力石炭の見直しも課題に

――温暖化対策技術のイノベーションで必要となるものは何でしょうか。

「景気を支え電化を進展させるために低コストの電力が要ります。政府の基本計画では、2030年度の電源構成の最適組み合わせ『エネルギーミックス』について、原発で20~22%、再生エネルギーで22~24%、残る56%を石炭や液化天然ガス(LNG)など火力発電で賄うとしています。しかしこれまでに再稼働した原発は9基にとどまり、実現は難しいかもしれません。石炭火力を活用して安価な電力を供給すれば、経済の回復、電化システムの進展を早められて、最終的に二酸化炭素の排出を抑えられます。重要な検討課題と考えています」

(聞き手は松本治人)