メディア掲載  エネルギー・環境  2020.09.14

「数合わせ」の議論から脱却を 火力の将来像を どう描くか

エネルギーフォーラム 20209月号に掲載

エネルギー・環境

再エネ主力化や石炭火力縮減がフォーカスされる一方、石油火力やガス火力に関する議論は深まっていない。電力事業の市場化や新型コロナ禍の経済悪化、そして将来の脱炭素化を見据え、火力が担う役割とは。


-非効率石炭火力のフェードアウトばかりが注目を集めていますが、火力政策全体を通じて、どんな課題があるとの認識でしょうか。

杉山大志(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹) コロナ禍により、3Eの中で安全保障と経済性の重要度が増したと思います。経済性のある石炭火力の重要性が高まりましたし、複合リスク、つまりパンデミックの最中の災害発生時にインフラのオペレーションをどう継続するのか、といった視点も重要です。さらに、国際関係の悪化も大きな要素。中国の一層の強硬姿勢で、日本に対する軍事的攻撃だけでなく、テロやサイバーによるインフラへの攻撃リスクが高まっています。

 これらを鑑みて、電力インフラの強靭化へのテコ入れで、供給源の多様化を進めるべきですが、真剣に検討されていません。能動的に出力制御できる電源の中で特に火力が果たす役割は大きく、東日本大震災でも北海道ブラックアウトでも、復興過程で火力が活躍しました。ただ、LNGは長期間備蓄できないので、やはり石炭に頼る面は大きく、フェードアウトの対象である亜臨界や超臨界も有事の際に役立ちます。今の議論にはそうした視点が欠けています。

荻本和彦(東京大学生産技術研究所 特任教授) 中長期の視点では、将来の電力システムの大きな変化の中で、3E+Sを満たす状態をどう定義すべきか、また、利害を主張する前に「社会コストミニマム」の視点に立つなど、常に基本に立ち返って議論することが重要です。変動性再エネが大量に導入されると、天気次第で発電量が欠乏状態となる時間帯が確実に発生します。現在は変動性再エネを遠隔制御できないので、今後10年ほどは需給を安定化しつつ何でその欠乏を補完するか、よく考えなければなりません。

 さらに長期的な視点では、先ほど指摘があったように燃料の輸入が滞った際や電源の想定外停止にどう備えるのか。石油火力の休廃止が加速すれば備蓄石油は使えなくなり、LNGは1カ月分も貯められませんが、石炭は貯炭場の容量に応じ長期に貯蔵できます。火力電源がそれぞれのミッションを果たす中で、再エネを最大限活用することができます。

全文を読む

Discussion 「数合わせ」の議論から脱却を 火力の将来像を どう描くか