新型コロナ・ウイルスへの対応が評価されて、4月中旬に行われた総選挙で過半数を大きく超える177議席を獲得した韓国与党。任期四年目を幸先よくスタートした文在寅政権は一見盤石に見えるものの、経済や南北関係といった重要課題への対応に苦慮している。
大統領任期四年目の節目を迎えて
韓国大統領の任期は憲法で一期限りの5年と定められている。現職の文在寅大統領は今年の5月10日で自らの任期四年目を迎えた。同日に大統領府で行われた対国民向け記者会見の席上で、文大統領は「この三年間、(朴樺恵前大統領を弾劾へと導いた「ろうそく」集会の)ろうそくの念願を常に心に留めて国政を運営してきました。公正と正義、革新と包容、平和と繁栄の道を歩もうとしました。(中略)残りの二年間、さらに固い決意で国政に臨みます。任期を終えるその瞬間まで、国民と歴史から与えられた使命を果たすために重い責任感を持って全力を尽くします」との所信を表明した。
それから1ヶ月後の6月5日に、大統領府報道官は文大統領が2022年5月の退任後に住む新しい住居と土地を、4月29日に私費を投じて10億6401万ウォン(約9400万円)で蹴入したことを発表したことを発表した。場所は慶尚南道(キョンサンナムド)・梁山(ヤンサン)市内で、すでに同市内にある私邸とは別に建物と土地を購入したとされる。元々ある私邸に警護要員が詰める建物を建設するスペースがないため、新たに購入する必要が生じたというのが大統領府側の説明である。
ここで「韓国大統領」、「私邸」というキーワードを聞いただけで何かを思いつく読者は韓国政治通である。歴代韓国大統領の私邸は韓国政治史の節目節目で多くのドラマの舞台となってきたからだ。例えば、金泳三元大統領や金大中元大統領は、軍事政権下における民主化運動の過程で自宅軟禁を強いられた経験を持ち、ハンスト闘争を行った自宅が政治闘争の舞台であった
その一方で、大統領退任後の私邸が政治的な大事件の舞台となったのは、慮武鉉(ノ・ムヒョン)・李明博(イ・ミョンパク)・朴樺恵(パク・クネ)の三代続けての元大統領である。慮武鉉元大統領は大統領退任後、歴代大統領として初めてソウルではなく、慶尚南道・金海(キメ)市郊外の烽下(ボンハ)村に新居を構えたが、家族の不正資金疑惑を追及され、2009年5月23日に自宅近くの山で自らの命を絶った。李明博元大統領は退任後の住居としてソウル市内に購入した私邸の取引が不透明だとして、特別検事から追及されるまでに政治問題化した。朴樺恵前大統領も任期終盤に、引退後の私邸購入準備業務を、国の情報機関である国家情報院に指示した疑いがかけられた。我が国においてもすっかりおなじみとなった「韓国大統領は任期後半にレームダック化し、退任後に不幸な結末を迎える」という韓国政治の負のジンクスの舞台が大統領退任後の住居と関連してきたのである。こうした歴代大統領の引退後の歴史と比較しても、任期三年を終えた時点で七割を超える高支持率で通過した初の大統領として、文在寅大統領は韓国政治における負のジンクスとは無縁のように見える。・・・