メディア掲載  エネルギー・環境  2020.08.05

温暖化の科学に迫るインターネット検閲の闇

NPO法人 国際環境経済研究所HPに掲載(2020年7月20日)

エネルギー・環境 米国

検閲というと、政治の話かと思いきや、科学にも闇が迫っている。

地球温暖化のように極めて複雑な自然現象を扱う問題では、幅広い科学的な見方があるのは当然である。ところが、ソーシャルメディアが温暖化「脅威論」に対して懐疑的な記事を、削除したり、検索に掛からない様にして、情報の伝達を妨げている。被害の報告を紹介しよう。

1.トランプ VS ツイッター

先ずは、インターネット検閲に馴染みのない方のために、ソーシャルメディアによる検閲の1つの例として、最近話題になったトランプとツイッターの対決から始めよう。

トランプがツイッターに掲載した「郵送投票では不正が生じる」という記事(ツイート)に対して、ツイッター社は、「注意!郵送投票について事実確認をしてください」と警告を書き、更に、トランプ氏の発言に否定的なリンク先を付けた(図1)。このリンク先には、CNNやワシントンポストなどの、トランプに否定的なメディアの報道が引用されている。 
ツイッター社は「ミスリーディングな情報」について、このような対応を採る、という方針を表明している注1)


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図1 トランプ氏のツイート。「郵送投票は不正が生じる」と書いてある。その下に、ツイッター社から、警告のコメントがあり、青くビックリマーク「!」に続いて「郵送投票についての事実確認をしてください」と書いてある注2)


これを受けトランプ氏は、「言論の自由を損なうものだ」として、ソーシャルメディア事業者に対する規制を強化する大統領令に、5月28日に署名した。

これまで、ソーシャルメディア事業者は、提供しているプラットフォームに掲載されている記事の内容については法的責任を免れていたが、もはやそれを認めるべきではない、というものだ。

これは決してトランプ大統領の独走ではなく、共和党の有力者からの支持も得ている。

例えば、大統領候補でもあった共和党のマーコ・ルビオ上院議員は、ソーシャルメディア事業者に対し、上述のような事実確認の注意喚起(ファクトチェック)のラベルを付ける場合は、「出版社の編集作業と実質的に同じことをしている訳だから、その行動について出版社同様の法的責任を担うべきだ」、と訴えている注3)

ソーシャルメディアはこの大統領令に対して、かかる形でソーシャルメディアの活動に制約を課することは、これまた「言論の自由を損なう」として、反発している。


2.ウェブサイトで検閲された温暖化懐疑論

さて本題の地球温暖化問題に入ろう。

地球温暖化に関しては、「災害がすでに起きており、脅威が差し迫っており、2050年ゼロエミッションといった大規模なCO2排出削減が必要だ」とする温暖化「脅威論」と、そこまで極端な対策は必要無いとする「懐疑論」がある。なお「懐疑論」と言っても幅は広く、一定の温暖化対策は必要とする考えもあれば、CO2による地球温暖化自体を全否定する考えもあるが、本稿では便宜上まとめて「懐疑論」と呼ぶことにする。

この「懐疑論」が、ウェブサイト上で検閲の被害を受けている。

フォーブス(1) 「環境運動家の謝罪」記事を取り下げた

マイケル・シャレンバーガーが、脅威論から懐疑論に転向し、「過去に地球温暖化の脅威を煽っていたことを謝罪する」という記事を発表し、話題になった。この記事では、「気候変動は起きているけれども、世界の終わりではないし、我々の最も深刻な環境問題でもない」といったことが書かれている(IEEI記事:環境運動家が「気候変動の恐怖を煽ったことを謝罪」した)。

実はこの記事は、当初はフォーブスのウェブサイトに掲載されたのだが、すぐに削除されてしまった。仕方なく、シャレンバーガーは、自身が運営するNGOのウェブサイトにその記事を掲載した。

フォーブスは記事を削除した理由を「編集上のガイドライン違反」としているが、それ以上何も説明していない注4) 。なおシャレンバーガーはフォーブスの常連で、以前書いた記事は今でも多くが閲覧できる注5)

フォーブス(2) 太陽活動の変化が温暖化に寄与するという記事を取り下げた

実はフォーブスが懐疑論の記事を取り下げたのは初めてでは無い。

ドロン・レビン記者が、「太陽活動の変動が地球温暖化に寄与している」「CO2倍増による地球の気温上昇は、1℃と1.5℃の間程度。IPCCが1.5℃と4.5℃の間程度と言っているのより低い」といった内容の科学者ニル・シャビーブの記事をフォーブスに掲載した。だが、発表後まもなく、フォーブスはその記事を取り下げてしまった。フォーブスの当該ページを見ると、「この記事は利用できません」となっている注6) 。仕方なく、ドロン・レビン記者は、当該記事を別のウェブサイトにアップしている注7)

記事を取り下げた理由として、フォーブスは「編集上の基準に達していない」としているが、それ以上の説明はない。ニル・シャビーブは、「編集上の基準に達していない」とうのは建前での理由であり、実際には“政治的に正しくない”温暖化の記事であると判断し削除したのであろう、と抗議している注8)

ユーチューブ: マイケル・ムーアの再エネ批判映画を取り下げた

環境に優しいとされてきた再生可能エネルギーが、実は環境影響が大きく、また一大産業化して企業の利益と結びついている、という現実を明らかにし、800万人以上が視聴したマイケル・ムーアの映画プラネット・オブ・ヒューマンズ が、ユーチューブから削除された(映画の概要についてはリンク先を参照)注9.10)

ユーチューブに削除を申し立てたのは、英国の環境写真家トビー・スミス氏であり、著作権侵害が理由だった。氏の作品は映画中で僅か4秒間使われていただけだった。

結局、当該の4秒間を削除したことでユーチューブと映画製作者間の折り合いが付いたようであり、11日後にはユーチューブに再びアップされた注11)

製作者側は、この4秒間の削除も法的には不要なことであり、「著作権法を濫用し、政治的な動機を達成しようとした試みである」として、削除申し立てが不当だと非難している。

製作者側は「映画に対する組織的な攻撃が行われた」としている。証拠として、ジョシュ・フォックスというジャーナリストが、「映画を削除すべし」と呼び掛けるメールを関係者に送ったことを突き止め、それに呼応して著作権侵害の申し立てが行われた、としている注12,13)

マイケル・ムーアらは、対抗措置として、ユーチューブ以外の300以上のウェブサイトに映画配信を依頼した。多くのウェブサイトから配信されていれば、検閲で妨害されても実質的な被害が無いとの考えだ。


3.ソーシャルメディアで検閲された懐疑論

ソーシャルメディアでも、温暖化「懐疑論」が検閲の被害を受けている。

アンソニー・ワッツは、懐疑論についてまとめたホームページを主催しているが、ツイッター、グーグル、リンクトインで受けた扱いについて、以下のように記している注14)

ツイッター

ツイッターには、広告掲載機能がある(例としては、リンクを参照)注15)

ワッツは、アカウントを持っていて、広告を出していたのだが、アカウントからの広告を停止された。

広告停止の理由は、「不正確な内容」を掲載したということだった。だが何を以て不正確とツイッターが判断したかというと、例えば、「地球温暖化の科学は間違いだ」とするノーベル賞物理学者の動画記事を紹介したことだった:

20200806_sugiyama_fig2.png


グーグル

グーグルにも、検索の利用に合わせて広告を掲載する機能がある(広告の例はリンクを参照)注16)

だがワッツの広告が、偽り(misrepresentation)であるとして、掲載を取り下げられることが度々あった:

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記事の内容は、前述と同様、多くの、ノーベル賞受賞者を含む著名な科学者が、温暖化懐疑論者である、というものである注17) 。  

ただしグーグルは最近になってワッツの広告を禁止することは止め、マイナーな文書修正によって広告が掲載されるようカスタマーサポートをしている、とのことである。

リンクトイン

マイクロソフト・リンクトインも、ワッツの意見広告を何度も禁止している。広告の内容は、やはり著名な科学者で大勢の懐疑論者がいる、というもの。

リンクトインが禁止している理由は、「憎悪、暴力、差別、敵対」のため却下する、とのことである。ワッツは、これは理由になっていない、と抗議している。 

20200806_sugiyama_fig4.png


フェイスブック

上記のアンソニー・ワッツはフェイスブックから被害を受けたことは無い、としている。

だが別の懐疑論者であるパット・マイケルは、フェイスブックから記事に「偽情報(False)」というタグを付けられたことで、被害を受けたとしている注18)

「偽情報」のタグが付けられると、他のユーザーの検索にヒットしなくなる。すると情報の拡散が出来なくなって、メッセージを読まれる回数が減る。広告を伴う場合には、その売り上げにも悪影響が出る。このようにタグを付けて事実上その記事を禁止する手法は、「シャドー・バン」(隠れた禁止)と呼ばれている。

フェイスブックは、「Climate Feedback」注19) というグループに依存して事実確認(ファクト・チェック)をし、「偽情報」の判定をしている。だがこれは、事実確認というよりは、レビューを担当した2名の研究者の意見の反映に過ぎない、とマイケルは述べている。そして、レビュー意見に対しての反駁記事を別途発表している注20)

パット・マイケルの主張は、過去100年の地球温暖化の半分は自然変動であって温室効果ガスのせいではない、といったことである。


4.検閲との戦いの行方は

地球温暖化のように極めて複雑な自然現象を扱う問題では、脅威論から懐疑論まで、幅広い科学的な見方があるのは当然である。

筆者の見立てでは、今回「懐疑論」として被害を受けた記事は、何れも科学的に健全な議論の範疇であり、「偽情報」と断定できる様なものではない。

むしろ、筆者の感覚では、温暖化「脅威論」の方が、よほど明白な偽情報が蔓延している。例えば「温暖化のせいで台風が強くなった」という記事は多いが、実際は台風は強くなどなっていないことは、統計を見れば明らかだ注21) 。だが、このような「脅威論」の明白な偽情報が、タグをつけられてシャドー・バンをされたりしたのは見たことがない。 

今回の事例で分かったことは、温暖化「脅威論」のストーリーに合わない記事が、削除されたり、あるいは「偽情報」タグを付けられて事実上の禁止をされて、人々の情報入手が妨害されている、ということである。

このようなやり方で、ソーシャルメディアが、全知全能の神のように真偽を判断することは、科学情報の普及の仕方として不健全である。

他方で最近の動きとして、「フェイスブックは、温暖化に関する偽情報の拡散を止めるべきだ」、というオープンレターが発表された。この署名者リストの中には、クリントン政権の下で大統領首席補佐官を務めたジョン・ポデスタもいる注22) 。 

米国では、共和党は「ソーシャルメディアが民主党寄りであり、シャドー・バンによって共和党の利益を害している」と見ている。他方で民主党は「共和党側がフェイクニュースを流して民主党の利益を害している」と問題視している。

地球温暖化問題は、米国では党派問題であることは以前に述べた通りであるが注23) 、温暖化問題についても、民主党は、懐疑論を「共和党によるフェイクニュース」だと見ているのかもしれない。

これから、ソーシャルメディアにどのような政治的圧力がかかるのか。その結果として、いかなる方針をソーシャルメディアが採用するのか。それは温暖化の科学の論争にどう影響するのか。引き続き注視が必要そうだ。


注1)https://blog.twitter.com/en_us/topics/product/2020/updating-our-approach-to-misleading-information.html
注2)https://www.bbc.com/japanese/52844954
注3)https://www.bbc.com/japanese/52844954
注4)https://nationalpost.com/opinion/john-robson-forbes-falls-to-cancel-culture-as-it-erases-environmentalists-mea-culpa
注5)https://www.forbes.com/sites/michaelshellenberger/#2fba6371b1b8
注6)https://www.forbes.com/sites/doronlevin/2019/08/09/global-warming-an-israeli-astrophysicist-provides-alternative-view-that-is-not-easy-to-reject/#521967bd6945
注7)https://www.thegwpf.com/revealed-the-climate-story-forbes-doesnt-want-you-to-read/?preview=true
注8)http://www.sciencebits.com/forbes-censored-interview-me
注9)杉山 大志 国際環境経済研究所(IEEI) 2020/05/02 リベラル陣営から飛び出した再生可能エネルギー批判 マイケル・ムーアの「Planet of Humans」を視る
注10)有馬 純 国際環境経済研究所(IEEI) 2020/05/15Planet for the Humans を視て感じたこと
注11)Michael Moore Presents: Planet of the Humans | Full Documentary | Directed by Jeff Gibbs
注12)https://planetofthehumans.com/2020/06/05/planet-of-the-humans-documentary-is-back-up-on-youtube-today/
注13)https://medium.com/@0rf/leaked-emails-call-for-censorship-of-michael-moores-new-film-exclusive-1185620505c9
注14)https://wattsupwiththat.com/2018/01/01/climate-skeptic-censorship-by-google-twitter-and-microsoft-linkedin/
注15)https://ec-growth-lab.com/wp/wp-content/uploads/2014/10/twitter_%E6%8A%95%E7%A8%BF%E7%94%A81.png
注16)http://www.total-web.jp/listing/001064.php
注17)https://defyccc.com/scientists/
注18)http://co2coalition.org/publications/global-warming-facebook-thinks-its-opinion-is-better-than-yours/
注19)https://climatefeedback.org/
注20)http://co2coalition.org/wp-content/uploads/2020/06/Michaels_Science-Policy-Brief_GlobalWarming_Facebook-final.pdf
注21)拙稿、環境白書は印象操作ではなく統計を示すべきだ
注22)http://co2coalition.org/2020/07/01/facebook-oversight-board-urged-to-tackle-climate-loophole/
注23)http://ieei.or.jp/2019/10/sugiyama191007/