メディア掲載  エネルギー・環境  2020.08.04

環境運動家が「気候変動の恐怖を煽ったことを謝罪」した

NPO法人 国際環境経済研究所HPに掲載(2020年7月15日)

エネルギー・環境

環境運動歴の長いマイケル・シェレンバーガーが、「気候変動の恐怖を煽ったことを謝罪」したコラムが話題になっている。

彼の経歴は風変わりである。17歳から筋金入りの環境運動家・社会主義運動家として世界を巡り、やがて再生可能エネルギーや有機農業などはかえって環境影響が大きいことに気付き、原子力を推進するようになった。現在はNGOであるEnvironmental Progressの代表を務めるかたわら、メディアで多くの記事を書いている。国際会議ICEFでの講演などで何度か来日もしている。

そのシェレンバーガーが、著作「Apocalypse Never: Why Environmental Alarmism Hurts Us All (黙示録はもう要らない:なぜ環境危機扇動主義が我々全てに有害か)」の発表に合わせて、同著の概要を紹介する記事を「環境保護主義者を代表して、私は気候変動の恐怖を煽ったことを謝罪する」と題して発表した。

彼も、これまでは、気候変動の恐怖を煽ることで、CO2排出の少ないエネルギーを唱道してきた。しかし近年になって、環境運動がいよいよ常軌を逸するようになったと感じ、気候変動を煽ってきたことを認め、謝罪すべきだ、と感じたとのことである。

彼の主張は以下の様なものだ:

    ● 気候変動は起きているけれども、世界の終わりではないし、我々の最も深刻な環境問題でもない
    ● 人間は「6回目の大量絶滅」を引き起こしていない
    ● アマゾンは「世界の肺」などではない
    ● 気候変動は自然災害を悪化させていない
    ● 火災は2003年以来、世界中で25%減少している
    ● 人類が肉の生産に使用する土地面積は大幅に減少しており、その面積はアラスカに匹敵する
    ● オーストラリアとカリフォルニアの山火事は気候変動のせいではない。森林管理の失敗である
    ● CO2排出量は、多くの豊かな国で減少しており、1970年代半ばからイギリス、ドイツ、フランスで減少している
    ● オランダは海面より低い土地の生活に適応して豊かになった
    ● 世界の食料生産の余剰は25%もある。世界が暑くなると更に余剰は増加する
    ● 種の保存への脅威は、気候変動よりも、生息地の喪失と野生動物の殺害である
    ● 薪炭は化石燃料よりも人や野生動物にとってはるかに悪い
    ● 将来のパンデミックを防ぐには、農業の産業化が必要だ

このコラムを読んでおられる方々であれば、幾つかの細部はともかく、この殆どがファクツであることを知っておられるだろう。そしてこの殆どは、環境運動家のレトリックや日本の大手メディアの論調とは、かけ離れている。

シャレンバーガーは、これまで、気候変動の恐怖なるものがウソであることは言わなかった、と告白する。理由は、困惑していたからだそうだ。「結局のところ、私は他の環境保護主義者と同じくらい、脅威を煽りたてるという罪を犯していた。何年もの間、私は気候変動を、人類文明の生存の脅威と呼び、“危機”と呼んだ」、と彼は告白する。

だがそれ以上に「私は怖かった」と言う。「私は友人や資金を失うことを恐れていた。私は気候変動の科学の情報歪曲キャンペーンに対して、何も発言しなかった。私は何度か嘘つきから科学を守ろうと勇気を奮い立たせようとしたが、そのたびに酷い目に遭った。それで結局は、私の仲間の環境保護主義者が一般の人々の恐怖を煽るのを、ただ傍観してきた」。

彼が今回一大決心した理由は、気候変動に関する世論が、あまりにも極端になったせいだ、という。民主党の大統領候補選に出馬したアレクサンドリア・オカシオ=コルテスは「気候変動に取り組まなければ、世界は12年後に終わるだろう」と語った。英国で最も有名な環境団体は「気候変動は子どもを殺す」と主張した。

このような報道に曝された結果、ある調査では、昨年に、世界で、質問された人の半数は、「気候変動が人類を絶滅させると考えている」、と答えた。そして1月、イギリスの子供の5人に1人が、気候変動に関する悪夢を見ている、と調査に答えた。

この状況に耐えられず、シャレンバーガーは声を上げることにした。彼の著作で提示する地球環境問題の分析は以下のようなものだ:

    ● 工場と現代的農業こそが、人間の解放と環境保全の鍵である
    ● 環境保全のために最も重要なことは、より少ない土地でより多くの食料、特に肉を高い効率で生産すること
    ● 大気汚染と二酸化炭素排出量を削減するための最も重要なことは、薪炭から石炭、石油、天然ガス、ウランへの移行である
    ● エネルギーを100%再生可能エネルギーにすると、エネルギーに使用される土地面積を、今日の0.5%から50%に増やす必要がある(注:米国に於いて)
    ● 都市、農場、発電所は、低いエネルギー密度ではなく、高いエネルギー密度にすべきだ
    ● 菜食主義への転向は個人の排出量を4%以下しか減らさない
    ● クジラを救ったのは、グリーンピースではなく、鯨油から石油とパーム油への転換だった
    ● 放牧牛肉は、飼育牛肉に比べ、20倍の土地を必要とし、300%以上の排出量がある
    ● グリーンピースの教義によってアマゾンの森林が断片化し環境が悪化した
    ● コンゴのゴリラ保護は植民地主義的であり、国民の反動が起き、250頭のゾウの殺害をもたらしたかもしれない

以上も、細部にやや見解の違いはあるものの、全体としては筆者は大いに共鳴する。 現代的な工場と農業、土地利用圧力の少ないエネルギーこそが、人類の解放と環境保全の鍵である。なおシャレンバーガーは再生可能エネルギー、なかんずく風力発電を大々的に推進する、米国民主党が最近採択した「気候危機アクションプラン」(Climate Crisis Action Plan)について、風力発電が野生動物、とくに野鳥に与える被害を懸念しており、「民主党の新しい気候計画が絶滅危惧種を殺す」と題する論文も書いている。

地球環境問題を知るほどに、そのファクツは、「気候危機」というレトリックや、その下で歪曲されている情報から、かけ離れていることが分かる。シャレンバーガーも、そのことを公に認める1人に加わった。今後は、強力な論客になるだろう。