コラム  国際交流  2020.08.03

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第136号(2020年8月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

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7月に上海で開催された国際会議(World Artificial Intelligence Conference (WAIC))は“Intelligent Connectivity、Indivisible Community(世界人工智能大会: 智联世界、共同家园)”と題し、globalizationの深化を称える精神を謳った。だが残念な事に世界に漂う緊張感—主因はCOVID-19及び米中関係—が障害となって、楽観出来ない状況だ。


米国出身で毒舌家の或る友人はWAICの表題を皮肉り、「現実はIntelligent Disconnection, Divided Communitiesだ」とメールを送ってきた。これに対して筆者は、中国が7月初旬に公表したデータ規制に関する法制化—«数据安全法(草案)»; Data Security Law (“Draft Law”)—を念頭にして、「正確にはIntelligent Disjunction amidst Divided Politicsじゃない?」と返答した次第だ。

中国専門家のテイラー・フラヴェルMIT教授は6月末に小論(China’s Sovereignty Obsession)を発表し、“much ado about sovereignty”として主権に関し“空騒ぎ”する中国をShakespeare流に論じた(次の2を参照)。米中関係に関し筆者は、昨年末に台北で元米国国家安全保障会議(NSC)戦略計画担当上級部長ロバート・スポルディング氏の本(Stealth War, Oct. 2019)を巡り、同書台湾版の草稿(«隱形戰: 中國如何在美國菁英沉睡時悄悄奪取世界霸權»)を横に置きつつ議論した。同書は人民解放軍(PLA)関係者による本(«超限战»; Unrestricted Warfare, 1999)に触れ、CyberやAIを駆使する“戦争の新原理”に基づき、中国が今後“想定する限界を超えた”対外戦略を打ち出してくると警鐘を鳴らしている。即ち「武力と非武力、軍事と非軍事、殺傷と非殺傷を含むあらゆる手段を用いて、自らの利益を強制的に敵に受け入れさせる(用一切手段、包括武力和非武力、军事和非军事、杀伤和非杀伤的手段、强迫敌方接受自己的利益)」形で中国は国益を追求する“超限戦”を展開しようとしている、と。

米中間の相互不信が日ごとに深まる大国間競争の中(p.4の付属資料を参照)、人類のための先端技術開発が、細断化された形で展開するとの懸念が広まってきた。このため対中経済関係を重視するドイツやオーストラリア、そして東南アジア諸国や日本は自らの対応に関し、更に知恵を絞る事を余儀なくされている。EUの中でも難しい対応を迫られるドイツ産業同盟(BDI)は昨年1月、報告書「パートナーであると同時に体制的競争相手 (Partner und systemischer Wettbewerber—Wie gehen wir mit Chinas staatlich gelenkter Volkswirtschaft um?)」を発表したが、特にその中で示した「強く結束した欧州(Starkes und geeintes Europa)」と「立場を同じくする諸国との国際協力(Internationale Kooperation mit gleichgesinnten Partnern)」という課題は、克服すべき障壁を多く抱えているが、同国産業の奮闘を祈るばかりだ。

Post-coronaの中国はどの方向に向かうのか。内外の友人達と様々な情報交換を行う毎日だ。
7月中旬、Harvard Kennedy School(HKS)のAsh Centerから中国共産党に関する民意調査報告書(Understanding CCP Resilience: Surveying Chinese Public Opinion through Time)が公表された。著者のアンソニー・セイチ教授やエドワード・カニンガム氏と情報交換すると同時に、彼等から最新の知見を聞いた次第だ。中国の公式発表を正確に理解する事と同じくらい、この国の市井の人の“本音”を聞き出す事は非常に難しい。こうした理由から中国国内に多くの友人を持ち、言葉が堪能なセイチ教授やカニンガム氏が行なった長年にわたる調査に感心している。この調査は7月15日付の«環球時報»等で触れられ、ケッサクな事に華春瑩中国外交部報道官までがツイート発言している(次の2を参照)。
また国営企業(SOEs)改革は如何なる形で推移するのか。或いは経済成長減速の影響で、新卒学生の874万人が中国版「大学は出たけれど(毕业等于失业)」という状態にならないか。これらに関して、UCバークレー校Haas School of Businessのアン・ハンソン校長等が昨年1月に発表した研究論文(“Can a Tiger Change Its Stripes?”; «猛虎能否驯良? 欲遮还羞的国有企业改革»)等を通じて情報交換をしている。

COVID-19のために、夏のイベントが次々と“新しい形態”で実施されるようになった。
米国のアスペン研究所でマイケル・サンデル教授が9月刊行予定の著書(The Tyranny of Merit: What’s Become of the Common Good?)を語るvirtual eventを米国の友人達が知らせてきた。Aspen Instituteは1949年のゲーテ生誕200年を記念し、神学者で医者のシュヴァイツァー、哲学者のオルテガ、ピアニストのルービンシュタイン等を招いて避暑地のアスペンで過ごす行事を開催して以来、独創的な活動を続けるシンクタンクだ。筆者も数は限られているがご招待を頂き、知的刺激に満ちたひとときを過ごさせて頂いた。

特にAspen Ideas Festivalは、ノーベル賞受賞者やメトロポリタン歌劇場の歌手、連邦政府の高官や国際問題に関心の高い企業人が集う素晴らしい機会である。筆者の懐かしい思い出は、①BostonからAspenへ向かう飛行機で、偶然一緒になったジャーナリストのトーマス・フリードマン氏(The World Is Flatの著者)は、客室乗務員が有名な彼に気付いたため搭乗後の離陸直前にfirst classに移れたが、無名の筆者は残念ながらeconomy classに留まるしかなかった事と、②マデレーン・オルブライト元国務長官の流暢なフランス語に舌を巻いた事だ。
またAspen Strategy Groupはブレント・スコウクロフト元大統領補佐官やジョセフ・ナイ教授等が語り合う知的集団で、彼等の知見にも注目する必要があろう。日本の優れた若者達が将来参画する事を願ってやまない。

恒例の英国音楽祭(BBC Proms 2020)が始まったが、ソフトウェアの“BBC iPlayer”は日本では利用不可能だ!! ベートーヴェン生誕250周年で折角盛り上がっているのに、日英間のdigital connectivityが未だ不完全である事が残念だ。今後の制度的・技術的改善が望まれる。

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