コラム  外交・安全保障  2020.07.14

ポスト・イージスアショアの防衛構想:中国との「戦略的競争」を焦点に

安全保障

戦略性と政治性の接近が必要

地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」配備計画の撤回をめぐる政策過程は、日本の安全保障政策の戦略性の追求と、防衛行政の実効性との間に深刻な溝を示すこととなった。イージス・アショアは弾道ミサイルの脅威から日本を防護するために「必要不可欠な装備品」(防衛省)のはずだった。それが迎撃ミサイル発射時のブースター落下の危険性(より具体的には安全に落下させるためのハードウェア改修の費用と期間が合理的ではないという判断)により、配備停止に至った。日本防衛の戦略性からみれば違和感を拭えない。しかし、政治性からみれば重要な防衛アセットを配備する地元の同意と理解なくして、戦略性の達成が困難となるという現実は、十分に尊重すべきではある。

安全保障・防衛政策は専門性・秘匿性が高い分野であることから、具体的な政策について国民的合意を作り出すことは難しい。各種世論調査でも、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさ、日米安全保障体制への支持、自衛隊への好意的印象には広範な合意があるものの、安全保障政策の法的基盤のありかたや、具体的な防衛政策ではその評価が分かれてしまう。

河野太郎防衛大臣は「全てのオプション(選択肢)をテーブルに載せ、長所、短所を丁寧に説明しないと建設的な議論はできない」(6月25日のメディア出演時の発言)という認識を示した。日本政府には安全保障環境の認識、能力の評価、防衛政策の選択肢、利益とリスク、コストなどを、従来よりも積極的に公開し、戦略性と政治性を接近させる一層の努力が必要ということになる。これがイージス・アショア撤回の政策過程から導くべき教訓である。

防衛政策ポートフォリオ破綻のリスク

政府は国家安全保障会議(NSC)4大臣会合を経て、イージス・アショア配備手続きの停止を契機として、「国家安全保障戦略」(NSS)・「防衛計画の大綱」(防衛大綱)・「中期防衛力整備計画」(中期防)の見直しに着手した。このうち「国家安全保障戦略」については、策定からすでに7年が経過しようとしており、防衛大綱や中期防との一貫性・整合性を保つためにも、時宜にかなった改訂といえる。

しかし、来年度予算の概算要求が予定される9月、そしてNSS/防衛大綱/中期防を12月までに改定する厳しいスケジュールの中で、どこまで政府・与党内で本格的な議論が深まるかは未知数だ。政府内には限られた時間の中で、現行の防衛大綱の路線を継承しつつ改定の選択と集中をはかる考え(ミニマリスト)と、これを契機に「敵基地攻撃能力」の導入を含めた抜本的な防衛構想の転換を図ろうとする考え(マクシマリスト)が併存しているようだ。しかし、このような抜本的な転換を新たな法整備、防衛予算の大幅な拡充や組み替えを伴う政治決定なしに実現することは難しい。しかもこの安全保障・防衛戦略の策定を、コロナ禍における未曾有の規模の財政支出と景気低迷の中で行わなければならない。

実際のところ、政府の初動は防衛政策の抜本的転換で一致している訳ではない。河野大臣が「全てのオプション」をテーブルに載せると発言した傍で、「(政府の検討は)専守防衛原則の範囲内」(菅官房長官)、「日米の基本的な関係、役割分担は変わらない」(茂木外務大臣)、「(イージスアショア配備について秋田・山口以外の)代替地を見つけることは極めて困難」(防衛省)、など、本来幅広く検討すべき政策オプションの幅が、自覚的か無自覚かを問わず、ミニマリストの方向に狭められている。

しかしイージス・アショアの配備停止という重大な決定を過小評価し、日本の安全保障・防衛政策をめぐる戦略方針を曖昧にしたまま、特定の方針の羅列によって限られた資源を配分することは、非効率かつ中途半端な防衛態勢をもたらすリスクが高い。例えば、防衛予算を据え置いたまま、戦略的にさほど意味のないレベルの敵基地攻撃能力を導入し、ミサイル防衛体制を拡充できず、イージス艦のミサイル防衛任務を荷重にし、結果として南西防衛が疎かになるといった、防衛政策のポートフォリオ破綻に繋がりやすい。

政府が実施する戦略策定のうち、防衛政策について12月までに取り組むべき課題は、現行の防衛計画の大綱(2018年12月)の継続・変更の必要性を十分に検証し、イージス・アショア配備計画の停止に伴う代替手段を検討し、日本を取り巻く軍事力や技術開発の新たな動向を取り込み、防衛戦略構想を明確化することにある。

イージス・アショア配備計画の代替はあるのか

防衛省は「イージス・アショアは、24時間365日、弾道ミサイルの脅威から我が国全域を防護するために必要不可欠」とこれまで主張してきた。実際、北朝鮮は日本全域を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有し、実践配備をしている。防衛省は、北朝鮮の核兵器が小型化・弾頭化の実現に至っていると評価しているため、核攻撃を前提としたミサイル防衛の態勢が必要となる。さらに、北朝鮮はミサイルの種別や運用方法を多様化し、移動式発射台(TEL)の利用、同時発射能力、奇襲能力などを高めている。こうした背景から防衛省が下した「ミサイル防衛能力の抜本的強化が必要」という判断は、合理的かつ正しい方向性であった。

日本を取り巻く弾道ミサイルの脅威に中国を加えれば、その脅威の評価はさらに深刻・複雑になる。中国は日本を射程に収める弾道ミサイルを多数配備している。特に通常・核弾頭双方を搭載可能な中距離弾道ミサイルDF-21、対艦弾道ミサイルDF-21D、対地巡航ミサイルCJ-20などが重要な攻撃アセットと位置付けられている。また、中国はミサイル防衛突破が可能となる打撃力の獲得を目指し、複数モデルの極超音速滑空兵器、極超音速滑空兵器の開発も進めている。

こうした日本を取り巻く弾道ミサイルの数的・質的能力向上を踏まえた場合、日本のミサイル防衛態勢に縮小均衡という選択肢はない。日本のミサイル防衛に求められる能力・態勢は、①北朝鮮が日本に対する弾道ミサイル攻撃に軍事的合理性がないと認識させる迎撃能力(拒否的抑止力)、②海上自衛隊イージス艦をミサイル防衛専従任務から解放し、南西方面での任務(対航空機・対水上艦・対潜水艦任務)を強化できる態勢整備、③中国のミサイル攻撃に対する限定的なミサイル防衛能力の獲得、④米軍が安定的に前方展開を継続できる防空態勢を提供する、⑤高速化・長射程化した巡航ミサイルに対する防衛・極超音速滑空兵器など複合的な経空脅威に対応する防衛システムを取り入れる、という5つの目標を追求するものではなければならない。

以上の目標追求のためには、現存のイージス艦による上層での迎撃とパトリオットPAC-3による下層での迎撃に加えて、常時・持続的な運用ができレーダー覆域が広く広範囲を防衛できる地上配備型システムがあることが望ましい。この基本設計に加えて、⑤に対応する新たなシステムの開発・導入を「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)として追求するべきである。北朝鮮が日本全域を射程に収めるミサイルの主力は依然としてノドン及びスカッドERを中心とする弾道ミサイルであり、ディプレスト軌道や変速軌道のミサイルは射程が短い上に、ミサイル延伸の技術開発には長期間を要するであろうことを考えれば、イージス・アショアの導入は依然として最も合理的である。

すでに防衛省は「イージスアショアの代替地の選定は困難」という見解を示しているが、本当に代替地が探しえないかどうか、再検証すべきではないか。陸上自衛隊の他の基地に相応しい場所があるかもしれないし、休閑国有地を活用したり、民有地を買い上げる選択肢もある(実際、韓国のTHAADが配備されるのは韓国南東部の慶尚北道星州部にあるゴルフ場である)。さらに、レーダーサイトと迎撃ウエポン(SM-3ブロックIIA)を別々の場所に配置するローンチ・オン・リモートを採用し、より柔軟な配備地の選定や迎撃時の安全性の確保ができるかもしれない。

もしイージスアショア配備を断念せざるを得ない場合、残された代替案は、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)導入もしくはイージス艦の増勢に絞られる。THAADは多層防衛をより強固にするという意味では優れた選択肢の一つだが、THAAD防護範囲はイージスアショアに比べて限定される。仮に日本全土を防護範囲に含めようとすれば、およそ6個高射隊を配備することが必要となる。その整備費用はイージス・アショアよりも高額となり、さらにブースター落下などの条件は変わらないことを考えれば、THAAD導入の政治的ハードルはさらに高いと考えるべきだろう。

残された選択肢はイージス艦の増勢ということになる。イージス艦の取得費用は1隻1700億円程度で、1隻につき常時300人以上の乗組員が必要となる。また整備・練成・訓練を経て任務を遂行するサイクルを続け、2隻程度が洋上でミサイル防衛に対応するためには、イージス艦をほぼミサイル防衛任務に専従させる形で運用せざるを得ない(防衛省資料)。イージス・アショア配備停止後の代替案は、それぞれコスト・運用面で大きな課題があることを認識しなければならない。

その他、中・長期的課題としてはミサイルの探知・追尾・識別能力を高めるため、宇宙配備型の小型人工衛星群(コンステレーション)の開発・配備の推進が推奨される。コンステレーションは弾道ミサイル攻撃に対する早期警戒態勢を飛躍的に高めることが期待されている。また、飛翔段階(ブースト・フェーズ)における迎撃システム、特に無人機に搭載されたレーザー(エアボーン・レーザー)による迎撃の研究開発を推進していくことは重要であろう。

「敵基地攻撃能力」の導入の論点

今回の防衛計画の大綱・中期防衛力整備計画の改定で、再浮上したのがいわゆる「敵基地攻撃能力」の検討である。これまで幾度となく自民党国防部会などで議論が提起されてきたが、今回はイージス・アショアの配備停止によって生じた防衛の空白を、攻撃能力によって埋め合わせる文脈で着想されていることに特徴がある。

敵基地攻撃能力の導入の是非については、2017年8月に当研究所のコラム(「敵基地反撃能力-弾道ミサイルへの対抗策-」)に筆者の見解を掲載した。筆者の基本的な認識は当時と変わらないが、改めて要点を振り返ってみたい。議論の前提となるのは、敵基地反撃能力を日本の防衛政策の中でどのように位置づけるのか、その戦略的合理性と危険性は何か、具体的な装備体系や態勢に何が必要とされるか、日本の限られた防衛予算の効率的運用にどれほど寄与するかである。

敵基地攻撃能力の戦略的合理性については、①弾道ミサイルが発射される前の段階で、相手のミサイル能力を無力化する【無力化】、②弾道ミサイル攻撃に対する報復能力を整備し、独自の抑止力を追求する【懲罰的抑止】、③限定的な敵基地反撃能力と弾道ミサイル防衛を組み合わせ、被害の局限を図る【損害限定】、という3つの考え方がある。

このうち①については、北朝鮮のミサイルが移動式発射台を多数配備し、地下施設等で秘匿性を高め、発射手段を多様化する中、我が方の限定的な巡航ミサイル攻撃等でこれら能力の無力化するのは極めて困難だ。

また②によって日本が独自の「懲罰的抑止力」を保持するには、相手国に対して「耐えがたい損害」を与える規模の報復能力を保有することが必要となる。数十発程度の巡航ミサイル攻撃では懲罰的抑止力にはなりえない。しかし、北朝鮮の軍事施設や都市などに対する大量報復は、日本の防衛政策の原則とは全く相容れない方針ということになる。

仮に日本が「敵基地攻撃能力」の導入を図るとすれば、唯一可能なのは③ということになる。限定的な攻撃能力であっても飛来する弾道ミサイルの総数を減らし、ミサイル防衛の迎撃信頼性を高め、総合的な対弾道ミサイル対処能力の向上を目的とする。これは先に触れた統合防空・ミサイル防衛(IAMD)の一環として位置付けられるものである。

その場合でも打撃力の主役を担うのは米軍と韓国軍の攻撃(キルチェーン)であり、自衛隊は補助的な支援攻撃を担う公算が大きい。敵基地反撃能力はその是非を含め、日米同盟及び日米韓の緊密な協力の下で追求されるべき課題なのである。

中国との「戦略的競争」概念の導入

ミサイル防衛の代替案と「敵基地攻撃」の検討を超えて、より大局的な視座から日本の防衛戦略に導入しうる概念は、中国との「戦略的競争」(strategic competition)の追求だ。米国の戦略用語としての戦略的競争は、米ソ冷戦期における熾烈な対立を長期的に勝ち抜く政策体系として、主として米国防省の戦略計画や統合アセスメントから生み出された概念である。

戦略的競争の原理は、安全保障、経済、政治基盤の優位性を保つため、台頭する競争相手国のパワーの基盤を揺るがし、資源を競争劣位な分野に浪費させ、拡張政策のコストを賦課することなどにより長期的競争を勝ち抜くことにある。そのために彼我の軍事・経済・技術・財政のポートフォリオを比較し、競争相手の得意分野での占有を防ぎ、不得意・不採算分野での投資を強いて競争体力を奪い、その間に次世代技術をリードすることにより競争空間を変化させ、時間を味方につける。

日本の防衛戦略の前提となるのは、中国の軍事的能力の向上によって、自衛隊の海上・航空優勢が常に確保できるとはいえない厳しい戦略環境である。中国の多数の中距離弾道・巡航ミサイルは、米軍の西太平洋での軍事展開や戦力投射、自衛隊の対米支援など、日米同盟の機能を脅かしている。またローエンド領域においても、海警局の巡視船の規模拡大や活動量の増加、人民解放海軍との連携強化が打ち出されている。

こうした中国軍のハードウェアの能力向上に自衛隊が正面から競争を挑めば、資源・財政的制約による劣勢は否めない。しかし、戦略目標の非対称性、地政学的条件、特定の技術の優位性、日米同盟の統合能力などを有機的に組み合わせることにより、中国軍の一方的な現状変更を企図する行動に対し、高いコストを賦課することが可能となる。防衛政策の焦点は対称的な勢力均衡を目指すというより、非対称的な拒否能力を高め、中国の軍事ミッションの遂行を不可能とすることに焦点を当てるべきだ。

そのためには、統合運用による機動性・持続性・強靭性を備えた防衛態勢の整備は不可欠となる。また電子戦領域、宇宙、サイバー、無人兵器、指向性エネルギー兵器などの新領域を組み合わせたマルチ・ドメインの戦闘領域の確立も急ぐべきだ。また接近阻止・地域拒否(A2/AD)環境の下でも、在⽇⽶軍基地が⻄太平洋の戦⼒投射プラットフォームとして有効に機能するように、その強靭性・抗堪性を強化する必要がある。より強力な脅威圏外からのスタンド・オフ攻撃能力を獲得することも、海上戦闘や離島防衛のみならず、米軍の戦域内プレゼンスを安定的に維持するために重要となるのである。