◇ 米国では3月初旬に新型コロナウイルス感染の急速な拡大が始まった。4月上旬をピークに一度は減少に向かったが、6月初旬をボトムに再び増加傾向に転じた。
◇ 新規感染者数が当初急増した原因はトランプ政権の楽観的な見通しを背景に、国家非常事態宣言の発表が遅れたことにある。その後一旦減少傾向を辿っていたにもかかわらず、再び増加傾向に転じた要因は、経済活動再開の急ぎ過ぎ、および、共和党支持者層を中心にマスク着用を拒否する傾向が根強いことなどが影響している。
◇ 米国では社会全体の安全や安心を犠牲にしても個人の自由を主張する傾向が根強い。これがマスク着用を拒否する人が多い根本的理由であると考えられている。
◇ 米国でマスクを着用していると、民主党支持者とみなされる。コロナ問題への対応が政治問題化しており、支持政党によってコロナ問題に対する認識も大きく異なる。
◇ 黒人男性ジョージ・フロイド氏が警官により頸部を膝で押さえつけられ窒息死した事件がSNS上で拡散したことを機に、人種差別に対する抗議運動が全米に広がった。トランプ大統領はこれに対して共感を示すことなく、法と秩序を守ることを強調し、暴徒化したデモ参加者のみならず平和的なデモ参加者まで鎮圧しようとした。のみならず、デモ鎮圧のために軍を投入しようとしたことに対して、軍最高幹部層らが強く反発した。
◇ 大統領選挙ではトランプ大統領の状況が厳しさを増している。唯一の評価材料とみられていた経済運営でも不適切なコロナ対策により不必要なダメージを与えたと批判されている。さらに、黒人差別問題でのトランプ大統領の姿勢が厳しく批判されている。6月中の支持率ではバイデン候補が10%前後の差をつけて優位に立っている。
◇ トランプ政権の政策運営は黒人と若年層の反発を招いているが、彼らは投票に行かない傾向が強いため、その意見は政治に反映されにくい。今後選挙の争点となるのは、国内問題が中心となる見通し。中国問題については、共和党、民主党を問わず、対中強硬政策を主張しているため、争点になりにくいと見られている。
◇ コロナ問題への中国政府の対応に世界中の多くの国が反発し、中国の孤立が深まっている。とくに米中関係は悪化している。ただし、米中貿易協議の第1段階合意に達したことについては、米国は引き続き高く評価している。
◇ 米国では安全保障分野と経済分野でファーウェイに対する姿勢が対立しているほか、欧州でも同様の問題が存在する。
◇ 米国の中国専門家の間では香港国家安全維持法制定は政策判断ミスとの見方が多い。
分裂する米国社会と米中関係の展望 ~新型コロナと黒人差別と大統領選挙~ <2020年6月11日~7月8日 米国欧州オンライン面談報告>