メディア掲載  エネルギー・環境  2020.07.06

温暖化で豪雨は増えたのか?

NPO法人 国際環境経済研究所HPに掲載(2020年6月16日)

地球温暖化で豪雨が増えた、とよくメディアで言われるが、本当だろうか。根拠となっている気象庁のレポートを検証してみると、確かに近年に豪雨は多いが、この原因は地球温暖化と特定できず、長期的な自然変動の一部かもしれないことが分かる。また地球温暖化が水蒸気量を増やし豪雨につながるという因果関係についても、可能性はあるが「更に詳細な調査が必要」とされており、決着はついていないことも分かる。

1.気象庁の「気候変動監視レポート 2018」

地球温暖化で集中豪雨が増えた、とよくメディアで言われる。最近、特に引き合いに出されるのが、「平成30年7月豪雨」である。これに関し、気象庁は以下のレポートを出している:

気象庁「気候変動監視レポート 2018」(以下、「レポート」)注1)
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/monitor/2018/pdf/ccmr2018_all.pdf

以下本稿では、この「レポート」の内容を検証してみよう。

2.「はじめに」は、いかにも「地球温暖化が原因で豪雨が強くなった」かの様に読めるが...

レポートでは、「はじめに」で、豪雨について、以下のように述べている。

「平成30年(2018 年)は、...我が国でも、西日本から東海地方を中心に広い範囲で数日間大雨が続き(平成30年7月豪雨)、全国の降水量の総和は、昭和57年(1982年)以降の豪雨災害時の降水量の中で最も多い値となりました。...このような極端な気象・気候現象の長期的な増加傾向には、地球温暖化の影響があると考えられ、気象庁で昨年8月に開催した「異常気象分析検討会」においても、昨年夏の...豪雨の背景に地球温暖化の影響があったという見解を公表しました。...このような地球温暖化による気候変動への対応は喫緊の課題...」

ここで引っかかるのは「地球温暖化の影響があると考えられ」という文言である。これは随分と問題のある文言である。

というのは、多くのメディアが、「地球温暖化が原因で豪雨が起きた」、と読んでしまったからである。

じつは、本稿で詳しく後述するように、因果関係は全然決着していない。「レポート」の内容を検証してみると、温暖化が影響した可能性は示唆されているものの、「更に詳細な調査が必要」とはっきり述べている。

「はじめに」を書いた側としては、ほんの僅かだけ豪雨が強くなっても「影響」であるし、「考えられ」とあるので、単に仮説にすぎないかもしれないことを言っただけだ、と言い逃れることは出来る。ただそうは言っても、メディアにわざわざ誤解させるような書きぶりには大いに問題がある。

もっと不適切なのは、因果関係について「更に詳細な調査が必要」であるにも関わらず、「地球温暖化による気候変動への対応は喫緊の課題」と言っている点である。これはいったいいかなる論理で導かれるのか。政治的な意見であって、科学とは無縁である。このレポ―トは科学的に中立であるべきであるところ、それを逸脱している。

3.「レポート」の内容を検証する

まずは「レポート」が何を言っているか、見てみよう。

冒頭の「平成30年7月豪雨」の特集では、日本では極端な大雨が強くなっている、としている(図1):

「日本では、1~3日間にわたって降り続く極端な大雨の強さが、長期的には増大する傾向がみられている。図 I.1-5は、アメダス地点の年最大24時間、48時間及び 72時間降水量の基準値(1981~2010年の30年平均値)に対する比である。これをみると、1976~2018年において、年最大24時間及び48時間降水量はそれぞれ10年あたり3.7%、3.9%の割合で上昇(信頼度水準95%で統計的に有意)、年最大72時間降水量は10年あたり3.6%の割合で上昇している(信頼度水準90%で統計的に有意)。すなわち、日本においてこうした極端な大雨の強さは、過去30年で約10%増加していると考えられる。」(レポートP3)


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図1 日本における大雨の日数、1976年~2018年 (レポート P3)


ここで注目すべきは、図1で、期間が1976年以降となっていることだ。だが このような短期的なデータでは、長期的な自然変動を捉えることが出来ないことは、気象庁もしばしば述べている。例えばレポートでも、P38において、「大雨や短時間強雨の発生回数は年々変動が大きく、それに対してアメダスの観測期間は比較的短いことから、長期変化傾向を確実に捉えるためには今後のデータの蓄積が必要である」としている。

そこで長期的なデータを探すと、レポートP37に出ていて、やはり大雨が増えている、としている:

「日降水量100mm以上、200mm以上及び1.0 mm以上の年間日数日降水量100mm以上及び日降水量200mm以上の日数は、1901~2018年の118年間でともに増加している(それぞれ信頼度水準 99%で統計的に有意)(図 2.2-4)。一方、日降水量1.0mm以上の日数は減少し(信頼度水準99%で統計的に有意)(図 2.2-5)、大雨の頻度が増える反面、弱い降水も含めた降水の日数は減少する特徴を示している。」(レポートP37)


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図2 日本における大雨の日数、1901年~2018年(レポート P37)


さてここで、じっと目を凝らして図2を見てほしい。たしかに全体としては右肩上がりだが、よく見ると、1901-1940年までは低く、1940-1970までは高く、1970-1990は低く、1990-2018は高い、というように振動しているようにも見える。特に、1940-1970年ごろは、最近とあまり変わらないぐらい大雨の日数が多い年があったように見える(ちなみにこのころには、近年では見ないような強力な台風が日本に頻繁に上陸していた注2) )。

1940-1970年のころは、まだ人間のCO2排出は少なかったし、それによるとされる地球温暖化も殆ど起きていなかったから、この大雨の増加はCO2排出によるものではない。だとすると、近年の大雨の増加も、CO2排出によるものとは限らないのではないか? あるいはCO2排出の寄与があったとしても、それ以外の理由による変動も大きかったのではないか?

4.水蒸気量が増えている?

「レポート」では、豪雨が強くなっている理由として、地球温暖化によって、大気中の水蒸気量が増えたことを挙げている:

「その背景要因として、地球温暖化による気温の長期的な上昇傾向とともに、大気中の水蒸気量も長期的に増加傾向にあることが考えられる。気温と水蒸気量の関係については、気温が1 ℃上昇すると、飽和水蒸気量が7%程度増加することが広く知られている。例えば夏季(6~8 月)の日本国内の13高層気象観測地点における850hPa比湿の基準値(1981~2010年の30年平均値)に対する比は、10年あたり2.7%の割合で上昇しており(信頼度水準 99%で統計的に有意)、過去 30 年で約8%増加していると考えられる(図 I.1-6)。更に詳細な調査が必要であるが、今回の豪雨には、地球温暖化に伴う水蒸気量の増加の寄与もあった可能性がある。」(レポートP3)


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図3 大気中の水蒸気量の変化 (レポート P4)


ただし図3も、期間は1980年以降に限られている。水蒸気の量は、1940-1970年ごろにはどうだったのか、「レポート」に掲載は無い。だがいまと同じくらい豪雨が多かったのだから、水蒸気の量も多かったのではなかろうか?

なお「レポート」の説明で「気温と水蒸気量の関係については、気温が 1℃上昇すると、飽和水蒸気量が 7%程度増加することが広く知られている。」とある。これはいわゆるクラウジウス・クラペイロンの式と言われるもので、基礎的な化学法則である。ただ地球温暖化が降水や大雨の増加にどの程度つながるかは、水蒸気から雲が形成され雨となる複雑なプロセスによるものであり、よく分かっていない。よく分かっていないからこそ、上記ではレポートP3では「更に詳細な調査が必要であるが、今回の豪雨には、地球温暖化に伴う水蒸気量の増加の寄与もあった可能性がある。」という慎重な言い回しになっている。

因みに地球規模での観測データに基づくと、地球温暖化による降水の増加はそれほど多くなく、2℃の温度上昇に対して4%程度しかない、とする論文も発表されている注3) 。地球温暖化と雨の関係についてはまだよく分からないことが多い。

5.都市化による豪雨

最後に、図1、図2には、都市化の影響が混入している可能性があることも付け加えておく。

「レポート」では都市化の影響は無いものとしている:

「大都市の多くで降水量や大雨の有意な長期変化傾向は見られておらず、都市化の影響は確認できていない。」(レポート P35)

だが詳しいデータは示されておらず、議論の余地があるだろう。というのは、試算によっては、東京やその周辺では都市があることによって降水量が1~2割増えた、とするものがあるからだ注4) 。都市化によって降水が増加するメカニズムとしては、①ヒートアイランドによって上昇気流が生じ、都市上空へ水蒸気が入りこみ、雲が発達すること、更には、②高層建築物が障壁になって上昇気流を作り出し雲ができること、等が指摘されている。

【追 記】

図2に関して、雨量観測の装置が時代によって変更されてきたので、1970年以前の降水量は少なめに観測されている、との指摘がある。本当に豪雨が増えたか否かは、この効果も合わせて検討する必要があろう:

「昔の雨量計は雨量小屋の上に取り付けられ,記録装置は小屋の中に置かれていた.受水口に入る 降水粒子の捕集率は風速によって変化し,強風時の降水量は少なめに観測される.特に降雪の場合 の捕集率は風速とともに急激に小さくなる... 雨量計受水口が小屋の上 に設置されていた1970年代以前の降水量は少なめに観測されたことになる」

出所: 近藤純正ホームページ K48.日本の都市における熱汚染量の経年変化
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke48.html

注1) なおこのレポートは下記検討会を下敷きにしている、となっているが、内容はほぼ同じである:
気象庁異常気象分析検討会 「平成30年7月豪雨」及び7月中旬以降の記録的な高温の特徴と要因について
https://www.jma.go.jp/jma/press/1808/10c/h30goukouon20180810.pdf

注2) https://www.canon-igs.org/article/20200414_6347.html

注3) 論文(公開査読中) Koutsoyiannis, D. (2020). Revisiting global hydrological cycle: Is it intensifying? Hydrology and Earth System Sciences.
https://doi.org/10.5194/hess-2020-120
紹介記事
https://www.thegwpf.com/bandwagon-of-doom-washed-away-by-tidal-wave-of-data/

注4) https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57579?page=3