メディア掲載  エネルギー・環境  2020.06.15

観測データと気候モデルの結果が合わない

NPO法人 国際環境経済研究所HPに掲載(2020年5月26日)

 地球温暖化に関する観測データが蓄積されている。最近発表された地球規模での水蒸気・降水量の観測の報告、および海流・風速の観測の報告は、何れも気候モデルと大幅に結果が異なる、としている。水蒸気量・降水量は、過去、気候モデルでは増えたはずだが、観測では増えていない。海流・風速は、気候モデルでは変化しなかったはずだが、観測では強くなった。更なる観測の強化が望まれる。一方で、気候モデルはまだ検証の途上にある。


1.水蒸気量と降水量

 地球温暖化に伴って、降水量が増加し、極端な降水も増え、洪水を招く、という言説がよく聞かれる。かかる予測は気候モデルに基づいていた。

 地球規模での大気中の水蒸気量と降水量について、衛星観測、地上の計測等を統合化した分析による論文が発表されたので、紹介する注1) 。  

 地球の温度が上がった場合、気候モデルでは、「相対湿度」(=通常で言うところの湿度。飽和水蒸気量に対する水蒸気量)は変化せず、「絶対湿度」(=単位体積当たりの水蒸気量)は温度の1℃上昇に対して7%の上昇をして(クラウジウス・クラペイロンの法則)、このとき、降水量は1%ないし3%の上昇をする、とされてきた。

 だが、観測データは、これらが何れも過大評価だったことを示す。過去、相対湿度は一定ではなく、減少した。これにより、絶対湿度もあまり上昇せず、温度の1℃上昇あたりに換算して2%の上昇に留まった。これは僅かな変化であり、防災活動に影響を及ぼすような量ではない。

 降水量についても、増加のトレンドは観測されなかった。気候モデルでは、降水量が増えることとなっていたが、これは観測データと一致しなかった。極端な降水についても、増加のトレンドは観測されなかった。


2.海流と風速

 地球規模での海流の強さと風速についても、衛星観測、地上での観測等を統合化した地球規模の分析による論文が発表されたので、紹介する注2)

 海流の強さを、地球全体の海流の運動エネルギーで測定した。すると、1990年以降、10年あたりで15%もの運動エネルギーの増加が測定された。この原因は、風速の増大だった。

 これに対して、気候モデルでは、海流の強さは増大せず、風速も増大していなかった。観測との違いがなぜ生じたのか、その理由は分かっていない。

 これまでは、地球温暖化によって大西洋の海流が弱まるという可能性が注目され、その環境影響が懸念されていた。だが、地球規模で見ると、海流の強さはむしろ増大している、とのことだった。


3.おわりに

 本稿で紹介した2つの論文は、何れも、その是非を巡って、今後の学界の議論に委ねられることになる。現時点での示唆は2点ある。第1に、地球環境は極めて複雑であるため、今後も観測に重点を置いてその理解を深めていく必要があることだ。第2に、気候モデルには検証すべき点がなお多くあり、このことを政策決定に当たっては踏まえる必要がある。


注1)論文:
Koutsoyiannis, D. (2020). Revisiting global hydrological cycle: Is it intensifying? Hydrology and Earth System Sciences.
https://doi.org/10.5194/hess-2020-120
https://www.hydrol-earth-syst-sci-discuss.net/hess-2020-120/
分かり易い解説:
https://www.thegwpf.com/bandwagon-of-doom-washed-away-by-tidal-wave-of-data/

注2)論文:
Hu, S., Sprintall, J., Guan, C., McPhaden, M. J., Wang, F., Hu, D., & Cai, W. (2020). Deep-reaching acceleration of global mean ocean circulation over the past two decades. Science Advances, 6(6), eaax7727.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aax7727
分かり易い解説
https://climaterealism.com/2020/03/scientists-acknowledge-ocean-currents-not-slowing/