コラム  国際交流  2020.06.05

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第134号(2020年6月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

都市の封鎖(lockdown)や厳格な検査・追跡・監視(test, track and trace)といった対策を実施する事なく、我が国は整然とした自粛策を通じてCOVID-19による被害を国際的な基準からすれば抑制する事に成功している。

  世界中で今、ノーベル賞作家アルベール・カミュの『ペスト(La Peste)』が読まれている。パリの友人から面白いメールが届いた-「サートゥルナーリア祭(les saturnales)は日本では大丈夫か?」、と。この祭は『ペスト』の中に出てくる祭で、イタリアのミラノでペストが1629年に勃発した時、自宅への流刑(l'exil chez soi)とも言える自宅待機に不満を抱いた人が、翌年鬱憤を晴らすために集った狂宴(les saturnales milanaises)を表している。筆者は「礼儀正しく秩序を尊重するのが日本人だよ。そんなバカ騒ぎをする人は僅かだ」と答えた次第だ。とは言え日本の現状は厳しい。だが、昨年14億人を超えた世界の海外旅行者数が今年には8~11億人減少すると懸念される中、観光業の依存度が高い伊仏西等の国々、そして所得格差が大きな海外諸国は、日本より厳しい環境下で苦しみ、不安と不満を公共の場で爆発させている人が数多くいるのだ。(本ページ下部のPDF4ページ目を参照)



5月22~28日、開催が延期されていた全国人民代表大会(全人代)が開かれ、景気浮揚や新型コロナ、香港や台湾、更には中米通商摩擦といった諸問題に関して、新たな情報の有無を今確認している最中だ。

 それまでは南シナ海における4月下旬以降の米豪艦艇(USS AmericaやHMAS Parramatta等)の動きに関する情報が断続的に届き、国際関係の専門家との意見交換を行っていた。何故なら米中両海軍が抱く相互不信が日増しに強まっているように映るからだ。

 これに関連して昨年12月4日に米国海軍作戦部長のマイケル・ギルデー大将が発表した「海上優勢を維持するための構想(A Design for Maintaining Maritime Superiority)に関する個別命令(Fragmentary Order (FRAGO))」について中国海軍(PLAN)は、雑誌(«当代海军»2月号)の中でその内容を詳説している。FRAGOの中で筆者は"全領域統合指揮通信能力(Joint All Domain Command and Control (JADC2); 全域指挥控制)"、換言すればデジタル化を通じた統合軍のシームレス化に主たる関心を持っている。特に注目するのはAI(人工智能)やRobot(机器人)を活用した"有人無人部門の連繋化(Manned and Unmanned Teaming (MUM-T); 有人/无人协同)"だ。

 何故ならこの軍民両用技術分野は民間への利用可能性が高く、我が国の国際競争力にも関わってくるからだ。産業用ロボットで競争優位を築いてきた日本だが、最先端の四足歩行ロボットの開発・製造分野で最先端を競う米国のBoston Dynamicsや中国のUnitree Robotics(宇树科技)と伍する企業(or 部門)を誕生させる事が出来るのか。政治経済的・技術的に追究すべきテーマである。



さて日本全体が自粛ムードに包まれるゴールデンウィーク(GW)期間中、自宅で静かに過ごした次第だ。

 心待ちにしていた007シリーズ最新作(No Time to Die)の4月公開が延期となり、また5月8日のVE Day(欧州戦勝記念日) 75周年を祝うRoyal Albert Hallからのライブ中継もCOVID-19のため延期になり落胆していた。

 それを埋め合わせるため、米国で既に公開された映画(Midway)をDVDで楽しんだ。このハリウッド映画が1937年10月のルーズヴェルト大統領による隔離演説(Quarantine Speech)で始まったため、史実に基づき作られた映画だと喜んだが、その次の場面で「アレッ?」と疑問に思う場面に遭遇した-山本五十六帝国海軍大将とエドウィン・レイトン米国海軍少佐とが言葉を交わした場面の後、その4年後として真珠湾攻撃の場面が続くのだ。2人の会話が4年前ならば山本大将はまだ中将であるはずだ。従って俳優の豊川悦司さん演じる山本提督が着ている軍服の襟章が大将となっている事は変だ。筆者の米国の友人達は歴史に詳しく、戦前の山本=レイトン関係も知る人が多い。従って筆者の疑問点を彼等に伝えた次第だ。

 詳しい歴史と言えば、日中関係史に関し、ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル名誉教授による最新のご著書の中国語版«中國與日本--傳高義的歷史思索»も、GWの期間中に読む時間が出来たと喜んでいる(原書はChina and Japan: Facing History, Harvard University Press, 2019。邦訳は『日中関係史』)。

 英国の友人が、延期になったVE Day関連の諸行事の事をメールで伝えてきた。ロンドンのフリーペーパー(Metro紙)が、「VE Dayに計画された行事を8月15~16日、VJ Day(対日戦勝記念日)に絡ませて実施する予定」と書いていた、と。

 ロシアでは、5月9日に盛大に祝うはずの大祖国戦争戦勝75周年(75-летия Победы в Великой Отечественной войне)も、同国で急速に蔓延するCOVID-19の影響から"盛大"とは到底言い難いものになったそうだ。今年の4月24日に法律が改正され、第二次世界大戦終結日が以前の対日戦勝記念日(Праздник победы над Японией)の9月3日となったが、ロシアもこの9月初旬に盛大な行事を計画しているだろうか。人気に陰りが見えているプーチン大統領の事だから、有り得る話と考えている。


全文を読む

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第134号(2020年6月)