地球温暖化によって、シベリア等の北極圏の永久凍土が融け、メタンが大量に発生することで、更に地球温暖化が加速する、という「気候時限爆弾」というシナリオが、ジェームズ・ハンセン等によって提唱されてきた(図)。
図 北極の「気候時限爆弾」シナリオ
https://files.secure.website/wscfus/8154141/uploads/Arctic_carbon_bomb_13.png
しかし最近の研究で、このシナリオは起きそうにない、という結論が、過去に地球が温暖化した時期の炭素同位体分析からも注1) 、将来についてのシミュレーションからも得られている注2) 。
発表されたシミュレーションでは、最も極端に人為的な排出量が増え地球の温度が大幅に上昇するIPCCのRCP8.5シナリオにおいてすら、北極圏からのメタンの排出量はほぼ横ばいで推移する、という試算が示されている。
そのメカニズムであるが、土壌中には、メタンを分解してそのエネルギーを活用する微生物が存在する。大気中のメタンの濃度が高まり、また地球温暖化で温度上昇が起きると、そのような微生物の活動が活性化するために、メタンは吸収され、大気中の濃度が下がる。
このような微生物のメカニズムは、既往の地球温暖化のシミュレーション研究では、あまり考慮されてこなかった。
他の研究と同様、これらの研究にも不確実性があり、絶対に正しいという訳でも無く、今後の学界の更なる議論が待たれる。何れにせよ、地球温暖化における科学には、よく分かっておらず、研究を深めるべき課題がなお多い。
注1)
過去に地球が温暖だった時期の炭素同位体の分析はhttps://science.sciencemag.org/content/367/6480/907
UCサンディエゴ大学によるプレスリリースはhttps://scripps.ucsd.edu/news/climate-destabilization-unlikely-cause-methane-burp
分かり易い紹介記事はhttps://www.thegwpf.com/new-study-global-warming-unlikely-to-cause-arctic-methane-catastrophe/
注2)
将来についてのシミュレーションはhttps://doi.org/10.1038/s41558-020-0734-z
Purdue大学のプレスリリースはhttps://climaterealism.com/2020/03/895/