メディア掲載  エネルギー・環境  2020.05.15

北極に「気候時限爆弾」は存在するのか?

NPO法人 国際環境経済研究所HPに掲載(2020年4月30日)

 地球温暖化によって、シベリア等の北極圏の永久凍土が融け、メタンが大量に発生することで、更に地球温暖化が加速する、という「気候時限爆弾」というシナリオが、ジェームズ・ハンセン等によって提唱されてきた(図)。


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                                   図 北極の「気候時限爆弾」シナリオ

https://files.secure.website/wscfus/8154141/uploads/Arctic_carbon_bomb_13.png


 しかし最近の研究で、このシナリオは起きそうにない、という結論が、過去に地球が温暖化した時期の炭素同位体分析からも注1) 、将来についてのシミュレーションからも得られている注2)

 発表されたシミュレーションでは、最も極端に人為的な排出量が増え地球の温度が大幅に上昇するIPCCのRCP8.5シナリオにおいてすら、北極圏からのメタンの排出量はほぼ横ばいで推移する、という試算が示されている。

 そのメカニズムであるが、土壌中には、メタンを分解してそのエネルギーを活用する微生物が存在する。大気中のメタンの濃度が高まり、また地球温暖化で温度上昇が起きると、そのような微生物の活動が活性化するために、メタンは吸収され、大気中の濃度が下がる。

 このような微生物のメカニズムは、既往の地球温暖化のシミュレーション研究では、あまり考慮されてこなかった。

 他の研究と同様、これらの研究にも不確実性があり、絶対に正しいという訳でも無く、今後の学界の更なる議論が待たれる。何れにせよ、地球温暖化における科学には、よく分かっておらず、研究を深めるべき課題がなお多い。


注1)

過去に地球が温暖だった時期の炭素同位体の分析は
Science論文:

https://science.sciencemag.org/content/367/6480/907

UCサンディエゴ大学によるプレスリリースは

https://scripps.ucsd.edu/news/climate-destabilization-unlikely-cause-methane-burp

分かり易い紹介記事は

https://www.thegwpf.com/new-study-global-warming-unlikely-to-cause-arctic-methane-catastrophe/


注2)

将来についてのシミュレーションは
Nature Climate Change論文:
Oh, Y., Zhuang, Q., Liu, L., Welp, L., Lau, M. C. Y., Onstott, T. C., ... Elberling, B. (2020). Reduced net methane emissions due to microbial methane oxidation in a warmer Arctic. Nature Climate Change, In Print(April).

https://doi.org/10.1038/s41558-020-0734-z

Purdue大学のプレスリリースは

https://www.purdue.edu/newsroom/releases/2020/Q1/purdue-study-downgrades-arctic-methane-emissions-thanks-to-soil-microbes.html

分かり易い紹介記事は

https://climaterealism.com/2020/03/895/