メディア掲載  グローバルエコノミー  2020.04.10

不用意な統制的市場介入は混乱を増幅

共同通信より配信(2020年3月)

 新型コロナウイルスの感染が世界的に広がる中、日本ではマスクやアルコール消毒液等の供給不足の状態が続いている。実際、1月までドラッグストア、スーパー等で普通に買うことができたこれらの商品はここ1-2ヶ月少なくとも東京では店頭で見かけることがなくなった。

 こうした状況をうけて、NHKから国民を守る党の浜田聡参議院議員は、マスクの買い占め・転売行為に対して、物価統制令、国民生活安定緊急措置法、買い占め防止法等を適用することに関する政府の見解を質す、質問主意書を参議院に提出した。

 質問主意書にある物価統制令とは、終戦直後の1946年3月3日に連合国最高司令官の命令に基づいて施行された価格統制に関する勅令、いわゆる「ポツダム勅令」を起源とし、1952年4月に日本が独立を回復した後は日本の国内法に基づいて存続してきた。日本では戦時中から国家総動員法に基づいて価格統制が行われていたが、戦後のインフレをうけて新たな法的基礎のもとに公定価格を再建することを意図したものである。物価統制令によれば、主務大臣は必要と認める場合、命令によって公定価格を設定することができる。

 上の質問主意書に対する答弁書で安倍晋三内閣総理大臣は、国民生活安定緊急措置法、買い占め防止法については適用の必要はないとし、物価統制令には言及しなかった。これは妥当な対応である。価格の公定は逆に超過需要を拡大し、その悪影響を避けるためには財の配給に対しても政府による統制が必要となる。実際、戦時中から終戦直後にかけての公定価格制度は切符制を含む配給統制と表裏一体の仕組みとして運用され、それはさらに経済警察や軍による取締によってサポートされていた。こうした準備なしに統制的手法を用いることは混乱を増幅するだけの結果となるであろう。