ワーキングペーパー グローバルエコノミー 2020.03.30
本稿はワーキング・ペーパーです
この論文では20世紀初めの日本を対象として、技術変化が賃金と労働者の技能にどのような影響を及ぼしたかを検討する。この時期、日本経済は、工場制度の導入や機械化といった産業革命の本質的要素を経験した。当時、日本の製造業の主要産業であった繊維工業においても、人々がそれぞれの家庭で分散して自律的に働く家内工業から、大規模な作業場に集まって経営者の監督の下、集団で働く工場制に主要な生産組織が移行し、また工場における生産には動力で稼働する紡績機や力織機が用いられるようになった。こうした変化の意味を検証するために、本論文では、絹織物業に関する詳細な工場別データを用い、力織機工場と手織機工場の間で賃金と労働者の構成を比較する。その結果、(a)賃金、(b)成人男子賃金の成人女子賃金に対する比率、(c)男子労働者比率に関していずれも、力織機工場が手織機工場より相対的に高かったことが明らかになった。(a)は力織機工場における労働の限界生産性が相対的に高かったことを反映し、(b)と(c)は力織機工場で新しいタイプの熟練労働者、すなわち機械工が雇用されるようになったことを反映している。