論文  財政・社会保障制度  2020.01.20

外国人住民増加による個人住民税の課題

月刊『税』(株式会社ぎょうせい)2019年12月号に掲載

はじめに

 本稿は、外国人住民増加による個人住民税(以下、住民税と略す)の課題について検討する。

 日本は長年の低い出生率が影響し人口が減少している。特に勤労世代が減少し、高齢化が進んでいる。現在の状況で、急に出生率が増加し人口が増加するとは考えにくい。今後の労働力が課題である中、外国人の増加は労働力の増加や人口減少への貢献が期待される。

 2019年1月1日現在の住民基本台帳人口(住民票に記載されている者の数)の外国人住民は、266万7199人である(外国人住民の割合は全体の2.09%)。前年より16万9543人増加した(6.79%増)。2018年12月8日に、「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案」が成立し、12月14日に公布された。新たな在留資格である「特定技能」が創設され、今後さらに在留外国人が増加することが予想される。

 外国人住民が増加したことにより、これまでにはなかった地方税の課題が出てきている。住民税は、ワーキングホリデーやアルバイトなどの外国人の短期労働者が増加する中、納税通知書の発送時には、すでに国内で転居していたり、国外に転出していたりする場合も多く徴収できないことが増えている。こうしたことが起こる背景には、まずは、住民税が翌年度課税であるので、そもそも所得の発生と納税に時差が起きることが挙げられる。そして、外国人の住民税が特別徴収されずに普通徴収になっていることがある。これは日本の事業者と外国人双方の地方税に対する理解不足が理由である。さらに、出国の際に転出手続が必要であるが、罰則規定がないことなどから、元居住自治体が、当該外国人の帰国後の住所や電話番号などの連絡先を得られずに、出国後に徴収不可能になってしまうことが挙げられる。それから、租税条約に住民税が盛り込まれていない国が多いため、また盛り込まれていたとしても、執行共助までに至っていないことが挙げられる。こうした住民税の課題を検討する必要がある。

 また、住民税は1月1日に住所を有する住民に課税されるので、たとえば同じ半年間の滞在でも、1月1日に居住しているか否かで、課税対象か非課税対象になるので、外国人の間で不公平感が生じている。こうした不公平感は、感情からくるので甘くみていると口コミで広がっていく可能性がある。そういった点からも、外国人にかかわる住民税の課題は検討する必要がある。

 住民税を検討する必要を説く理由には、自治体税務職員数の減少も挙げられる。1994年には85,000人程度いた税務職員が2016年には70,000人程度にまで減少した。1994年には6.8人の税務職員で住民10,000人に対応していたのが、2016年には5.5人で対応していることになる。今後も地方公務員は減少していくので、業務の効率化は必須である。特に、住民税は自治体の基幹税であり、毎年1月末から5月末の当初課税や定期課税と呼ばれる時期は業務量も多く、長年問題視されてきた。外国人住民の増加による住民税の滞納の増加は単に対応時間が長くなるだけでなく、言語や文化、ルール、距離の違いによるコミュニケーションの難しさも業務を煩雑化させる。こうした課題が顕在化し始めた今のうちに、自治体職員が疲弊してしまう前に、しっかりと検討する必要がある。

 外国人に関する課題については、日本政府も以前から把握している。観光立国を掲げている日本としては、訪日外国人旅行者数の増加は望むところである。また、筆者が冒頭述べたように、人口減少・労働力不足を補うためにも、外国人住民や就労外国人の増加は歓迎すべき状況である。しかし、本稿で検討する住民税の滞納をはじめ、日本人と外国人が安心安全に共存するには課題がある。日本政府は2018年12月25日に「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策」を公表した。その中に「納税義務の確実な履行の支援等の納税環境の整備」が述べられている。今後の進捗に期待したい。

 第1章では、外国人住民の動向について概観する。第2章では、外国人住民の増加による住民税の課題を把握する。第3章では、外国人に対する政府の対策について概観する。第4章で今後の解決策について検討する。・・・

 

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