コラム  国際交流  2020.01.15

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第129号(2020年1月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

謹賀新年。今年はベートーヴェン生誕250年やマックス・ウェーバー没後100年、また第二次大戦終結後75年を記念する様々な行事が予定されているが、諸兄姉と共に世界の平和と繁栄を祈ってゆきたい。

 今月竣工150周年を迎える楽友協会(das Musikvereinsgebäude)が在るウィーンに昨年末、親しい仲間達が集まった。会合では昨年2月に発表されたブリュッセル自由大学(VUB)のジョナサン・ホルスラグ教授による著書(The Silk Road Trap: How China's Trade Ambitions Challenge Europe)やトロントで昨年5月に開催された討論会(the Munk Debate)をまとめて12月に発表された資料(China and the West, 次の2を参照)、更には欧州におけるHuawei製通信インフラの信頼性について意見交換を行った。

 ベルリンでは、弊所(CIGS)で以前講演を行った独国際安全保障研究所(SWP)のハンス=ギュンター・ヒルベルト氏等と面談した。同氏はフォルカー・シュタンツェル前駐日ドイツ大使等と共に、中国共産党の歴史観に関する小論を先月発表したが、それを詳しく語ってくれた("Chinas gelenkte Erinnerung", SWP-Aktuell 2019/A 70; ちなみに同大使は駐中ドイツ大使も務めた経歴を持つ)。かくして経済活動は別としても、独中両国間で価値観・歴史観の乖離が次第に強く感じられるようになってきた。



欧州大陸に渡る前、英国を訪れ、国際関係と科学技術の専門家達と面談を行った。

 Brexitに関し"見事"と言う程、面白く知的好奇心を満たす本に関し、友人達と意見交換が出来た。それはハーバード大学ケネディ行政大学院(HKS)の准教授を務めた後にオックスフォード大学に移り国際問題研究所(CIS)所長となったカリプソ・ニコライディス教授が、昨年6年に発表した本だ(Exodus, Reckoning, Sacrifice: Three Meanings of Brexit)。同書の面白さを理解するには、諸兄姉に読んで頂くしか方法は無いが、離脱するとは言え、欧州大陸とは切っても切れない関係を持つ英国の運命を寓話として語り、何とも言えぬ魅力をかもし出している。また選挙結果が判明した翌日、筆者はFinancial Times紙の論説の中に敬愛する政治家ディズレイリの名前を発見した--ロバート・シュリムズリー氏による小論だ("Boris Johnson Channels Disraeli as He Fights to Keep One Nation Intact," December 14)。これに関して筆者は次のように語った:

 "高貴さ故の義務感(noblesse oblige)"の強いディズレイリは、労働者・低所得者層に配慮したOne-nation Conservatismを標榜し、また女王の寵愛を受けつつ帝国主義政策を貫いた。他方ジョンソン首相は、"One Team"を標榜し多様性を克服して勝利した日本ラグビー・チームの様に、国内分裂を克服出来るとは限らない。また首相の学歴(Eaton & Oxford)は、むしろディズレイリの政敵グラッドストンと同じだ。

 首相はDaily Telegraph紙に載せた寄稿文の中で、英国がBrexitにより交通渋滞から抜き出たスーパー・カーや冥界から解放された不死身のタンタロスの如く活躍すると述べた(小誌前号の2.情報概観を参照)。彼は北部のインフラ投資を強調しているが、はたしてそれが成功するかどうか...。とは言え、我々も英国を傍観する余裕はない。近年多発する自然災害で、国民・国土が部分的に相当傷ついている。しかもインフラの老朽化が進行しており、強靭な国土への改造が急務だ(PDF4ページ目の図表参照)。



ところで隣の韓国は筆者の国際感覚を検証する上で非常に重要な"知的砥石"だ--"韓国を理解する事は難しい。隣国ですら正確に理解出来ないのに遠い外国を正確に理解出来るのか。自分は本当に欧米諸国や中国を正確に理解しているのか"、と。

 韓国の友人に「この年齢になっても韓国の言葉も考え方も正確に理解出来ない」と告白すると、彼は笑いつつ「韓国人である僕も分からない」と返事をした。(筆者が韓国の友人達と話す時、短期間朝鮮語を学んだが挫折したために大抵英語を使うが、理解不能なのは当然ながら言葉の問題だけではない。恥ずかしながら筆者が李栗谷(이율곡)や朴趾源(박지원)を含め朝鮮思想史を学んだのはここ数年だ)。

 日本には年末「今年の漢字」を選ぶ行事があるが、韓国には「今年の四字熟語」を選ぶ行事があり、昨年は"共命之鳥(공명지조)"だった--これは日本の"共命鳥(グミョウチヨウ)"と同じ仏教用語で、頭を2つ持つ鳥を指す。2つの頭は意見が異なり毎日喧嘩をし、最後には相手を噛み殺すが胴体を共有しているために、双方の頭と胴体全てが死滅する。今の韓国はまさに共命鳥なのだ。

 昨年7月に出版され、11月に邦訳が出た李承晩学堂の李栄薫(이영훈)氏の著書『反日種族主義(반일종족주의)』を、邦訳の助けを借りながら読んだ。内容は最初から衝撃的だ--「プロローグ 嘘の国(프롤로그--거짓말이 나라)」と題し、嘘をつく国民、嘘をつく政治、嘘つきの学問、嘘の裁判と、"嘘(거짓말)"という単語が続く。同書のエピローグで著者は"ミネルバの梟(ふくろう)(미네르바의 부엉이)"に触れた。これはヘーゲル大先生の『法の哲学(Grundlinien der Philosophie des Rechts)』の中の文章を念頭にしたのだろう。そして今、韓国が"共命鳥"ではなく智慧の象徴である"梟"になる事を隣国の一市民として切に願っている(そうでなければ、日本の平和と繁栄にとって、韓国が不愉快な障壁となってしまうのだ。また日本の国際世論への語りかけにも障害となってしまう)。

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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第129号(2020年1月)