メディア掲載  エネルギー・環境  2019.12.05

【人類世の地球環境】テクノロジーと中国の未来

株式会社 オーム社 技術総合誌・OHM 2019年11月号に掲載

 天津市に行き、地方政府やエネルギー産業の方々と意見交換をする機会があった。中国は、世界のエネルギー産業を席捲した。大雑把に言うと、今や世界市場の半分以上が中国という感じだ。石炭火力発電、水力発電などの在来型のエネルギーはもとより、太陽光発電、風力発電、車載用のバッテリ、その原料のレアアースでも存在感は大きい。原子力やガスタービンではやや遅れているというが、これも時間の問題だろう。

 太陽光発電や風力発電は、大量導入後の調整局面にはあるものの、欧州や日本でバブルができては潰れる「ブーム・アンド・バスト」を繰り返した轍を踏んではいない。国内の電力市場もまだ伸びるし、火力発電の割合がまだまだ高いから、電力系統には余裕があるようだ。再エネ振興についての国の政策も安定感があり、上手く価格をコントロールしながら導入が続いていきそうだ。 中国は、確立した技術で安価に製造する能力が抜群だ。天津では、よく整備された広大なコンテナヤードを持つ港から、キレイな高速道路が延び、広大な工業団地が幾つも並ぶ。まだ経済は伸び続けて、国内市場は大きくなる。優秀な官僚、技術者も多く、低賃金の労働者もいる。風力発電のブレード(羽根)の製造工場に行った。風力発電というとハイテクと思う人もいるかもしれないが、実は、ブレード工場というのは巨大なプラスチック成型工場に他ならない。基礎技術は輸入だけれども、工場で働くのは皆中国の人だ。次々と長さ70mのブレードが作られて、大型トラックで出荷され、港に積まれていく。インフラと人が一体になった斯かる優れたシステムを作られては、日本は太刀打ちが難しい。

 天津ではエコシティの実証試験をしていた。実証試験といっても、人口10万人の都市をゼロからつくったのだから、日本の実証試験とは桁が違う。あらゆる情報が集められスマート化・エコ化が試される。だが、コンテンツは率直に言っていまいちだった。自動運転電気バスに乗ったが、これは人工的な街をのろのろ走るだけ、しかも区間も限られたものだ。顔認証システムによる無人レジスーパーにも行ったが、観光客にとって手続きが煩雑で不評だったため、システムを取り払ってしまった後だった。市内の駐車場のスマホ決済システムも、結構手間や時聞が掛かるし、結局係員は常駐していたりして、コスト削減にもなっていない。どうも1つ1つの技術は日本が上のものが多そうだ。けれども、統一的なコンセプトの下で、本物の人々10万人を相手に、プライパシーも気にせず情報を集めて分析し、本物の事業を実施できることは何といっても強みだ。

 交通といえば、天津の自動車はすっかり大人しくなった。今や日本よりも交通ルールを遵守する。信号無視や一時停止は、映像を記録され、罰則が科されるようになり、一気に改善したそうだ。交通警察は莫大な映像を集め、違反者を追跡する映像統合システムまで導入している。天津の町もキレイで、ごみ1つ落ちていなかった。現地の人の話では、「狼藉がなくなりマナーが向上した」 と評判が良かった。そういえば、つい10年前の中国は道を渡るのも怖かった。日本もあおり運転や痴漢防止のために導入したら良いと思う。

 ただし、中国は情報技術を別のことにも使いかねない。少なくともテレビや新聞の管理の厳しさは相変わらずだ。ちょうど香港の民主化運動が起きていたが、中国語放送は暴力的なシーンを映しテロリスト扱いをして、市民の安全が脅かされる、と一方的に言うだけ。CNNやNHKも視聴できるが、香港の話題になると画面は真っ暗になり音が消える。日韓のいざこざも報道されていたが、中国語放送では、「日本の映像です」と言って、大音量で演説する一部の運動家を映し、おおいに日本の印象を悪くしていた。こんなことをやっても海外旅行に行けば皆情報は手に入るから、分かる人には何が起きているかよく分かっていると思いたいが、実際どうなのだろう。

 中国でも地方農村はまだ貧しく、経済成長はなお必要だ。社会秩序を保つ必要もあるので、民主化するにしても時聞は掛かるだろう。政治は急には変われない。着実に、急速に進歩するのはテクノロジーで、それは世界中を豊かにする。すると、皆戦争を嫌うようになり平和がもたらされ、また人権も擁護されるようになるだろう。ただし、その日までは、技術力や防衛力といった古い国力がモノを言い続ける。これが人類の性だ。

 数年のうちに全ゲノム調査の結果が出て、中国人も日本人も実はほとんど同じ人々だということがよく分かるだろう。文化的にもよく似ている。子供を大事にして、子供に投資する(時々受験勉強等をやり過ぎる)。日本の静誼なお寺は、中国の文化を引き継いだものだ。女性は照れると、何とも言えない、はにかんだ笑顔を浮かべる。