メディア掲載  エネルギー・環境  2019.10.31

地球温暖化は正確に測定できているのか?

NPO法人 国際環境経済研究所HPに掲載(2019年10月17日)
既報( 日本の温暖化は気象庁発表の6割に過ぎない)で述べたように、日本の温暖化は、都市化の影響等を補正すると気象庁発表の6割程度に留まるようだ。それでは、世界の温暖化は正確に測定出来ているのだろうか。今回は特に米国での温暖化観測事情を紹介する。
 

1.衛星観測と地上観測でデータが大きく違う

 衛星からのリモートセンシングによる地球全体の気温上昇の観測値注1)は、1979年の観測開始以来あまり上昇していないのに対して、地上の測候所での観測による地球全体の気温は大きく上昇している。

 図1で説明しよう。ここには3つの観測データが登場する注2) :

(1)米国気象庁(National Oceanic and Atmospheric Administration: NOAAと略称される)による地上観測データ

(2)アラバマ大学ハンツビル校によるリモートセンシングデータ(UAH)

(3)米国リモートセンシング社によるリモートセンシングデータ(RSS)

 そして、図中の青線はNOAAからUAHを差し引いた値、緑線はNOAAからRSSを差し引いた値である。

 何れの線も、1979年をゼロとすると、2007年には0.5度上昇している。つまり地上観測データでは、リモートセンシングデータよりもかなり「温暖化が進んで」いる。

 この差は到底無視できない。というのは、この差はIPCCがこの間にあったとする地球温暖化の幅(図2)に匹敵するからだ注3) 。


sugiyama191017_01.png

図1 地上観測のデータとリモートセンシングのデータの差分(D'Aleo, 2016)


sugiyama191017_02.png

図2 IPCCによる地球規模の温暖化の推計(IPCC 第五次評価報告書) https://archive.ipcc.ch/report/ar5/wg1/


2.地上の気温はきちんと計測できているのか

 データが食い違うときはその理由を追求するのが科学的態度である。それでは、気温はどのように測定しているのだろうか。

 気温は、百葉箱や通風筒で測定してきた。読者諸賢も小学校で習ったであろう。その時の注意事項を覚えているだろうか? 風通しの良い場所に設置し、日光を避け、周囲に熱を持つものや風を遮るものを置かず、下には芝生を植えて、高さ1.5mで測定すること。。。等々。

 だが米国の実態と言えば、笑うに笑えないものだった。以下、写真集:

sugiyama191017_03.png

その1:通風筒が設置してあるが、駐車場の傍にあり、建物や、エアコン室外機(夏は温風が出ているだろう)に近すぎる。昔使っていた百葉箱はきちんと奥の芝生に正しく設置されているのに。。。(D'Aleo, 2016)


sugiyama191017_04.png

その2:通風筒が設置してあるが、駐車場の中に設置してある。これでは夏は暑かろう。 (D'Aleo, 2016)


sugiyama191017_05.png

その3:通風筒が設置してあるが、建物に近すぎる。木立も近すぎて風を遮り、ひだまりになっている。おまけに真下にバーベキューまで置いてある。まさかここで火をつけはしないと思うが、この庭でバーベキューをやったらまずかろう。。 (Pielke et al., 2007)


sugiyama191017_06.png

その4:ビルのてっぺんに設置された百葉箱。とても暑くなりそうだ。 (D'Aleo, 2016)


sugiyama191017_07.png

その5:百葉箱の横にテニスコートを作ってしまった。そしたら温度が急上昇した(挿入グラフ)。それに百葉箱の周りにごちゃごちゃとドラム缶やらなにやら置いてある。(D'Aleo, 2016)


sugiyama191017_08.png

その6:カリフォルニア州サクラメント。1890年から1970年までに温度が1度ほど上昇しているように見える。この温度上昇には都市化がかなり含まれているのではなかろうか。また1980年以降は温度は上昇していないように見える。IPCCの図2を見ると地球温暖化による温度上昇は1980年から2000年にかけて大きかったとされるが、これはサクラメントとは相関していない。 (D'Aleo, 2016)



3.データ処理は適切か?

 以上の写真集で見たような実態は、例外ではないらしい。ボランティア団体のsurfacestations.org が全米1000か所余りの測候所を調べたところ、惨憺たる結果だった。NOAAの5段階標準注4)に照らして、誤差1度以下のランク1、2は僅か10%であり、誤差が2度以上のランク4、5が69%を占めたという(図3)。


sugiyama191017_09.png

図3 ボランティア団体が調査した米国測候所のランキング(D'Aleo, 2016)  以上のように生データの質が低い場合、良いデータを主に用いて、悪いデータは除外するか補正して推計するのが筋だろう。



 とくに、都市化の影響が大きいことは世界共通である(図4)。そこで、地球規模の温暖化を測定したいのなら、大都市は除外し、それ以外のデータも必要に応じて補正して推計すべきであろう。


sugiyama191017_10.png

図4 米国における大都市と地方の温度推移の推計例(上)。両者の差分が(下)。大都市は都市化によって地方よりも約2度ほど温度上昇していることが分かる。(D'Aleo, 2016)



 しかしながら、NOAAではこれが逆で、地方のデータを都市のデータに合わせて補正注5)してしまっている、と指摘されている。そんなバカな、と思うかもしれないが、図5がまさにその例である。


sugiyama191017_11.png
図5 NOAAの補正によって、温暖化が出現した例。左右いずれの地点でも、バージョン1(青)ではそれほど温暖化傾向がみられないのに、補正をしたバージョン2(赤)では温暖化傾向が出現している。(D'Aleo, 2016)



 この補正の論理は、以下のようなものだ:

(1)観測データには報告漏れなどによる欠損も多く、すでに閉鎖した測候所も多いので、多くのデータを推計する必要がある。

(2)そのために、近隣の測候所のデータを使って推計する。

 一見もっともらしいが、この方法だと、どのような結果になるか。もしも大半のデータが信頼できるものであれば、欠損値を推計するのに妥当であろう。しかしながら、大半のデータが信頼できないならば、かえって誤差を増幅することになる。詳しい手順は不明ながら(この手順を明らかにすることが、まず第一にNOAAに求められる)、実際に起きていることは、都市化による温度上昇を含んだ都市のデータによって、地方のデータが「汚染」され、温暖化傾向が現れてしまっているように見える。そのようなデータ補正の例が図5である。

 このような補正の結果として、全米の平均気温も補正される。補正を重ねるにつれて、温暖化傾向が顕著になることが分かる(図6)。

 図6の特徴を掴むには、1930年代と1980年以降に注目して比較すると良い。1930年代は、米国はダストボウルと呼ばれる熱波の時代で、干ばつが起きて、大きな農業被害があった。補正前(図6上)は、その1930年代の方が1980年以降よりもはっきりと温度が高くなっている。ところが、補正後(図6下)では、この関係が逆転している。


sugiyama191017_12.png

図6 米国の気温、バージョン1(上、1999年)とバージョン2(下, 2007年)。バージョン2ではバージョン1には無かった温暖化傾向が強く現れている。(D'Aleo, 2016)



 しかしながら、この補正は、都市化の影響を、米国規模の温暖化だと誤認しているに過ぎないのではないか?

 このような疑念はだいぶ前から研究者によって提示されていた注6)。その結果、問題のある測候所は改善されたり、また補正の方法もある程度の見直しはされているようだ。だが、最近書かれたものを見ても、根本的な問題は未だ解決されていないようだ注7)。



4.むすび

 以上は米国について述べてきたが、ニュージーランド等の他の国、および世界全体で見ても事情は似たりよったりだとされる(D'Aleo, 2016)。

 本稿で検討した諸文献からは、地球温暖化傾向が明瞭に地上で観測されているとは言い難い。このことは、地球温暖化が無かった、ということを直ちに示すものではない。しかし、地球温暖化があったかどうか「真相は不明」であり、今のところは、都市化などの要因を除外したはっきりとした観測データとしては示されていない、ということが分かった。

 NOAAのデータについては再分析をして、長期的な地球温暖化がどの程度起きているのかを明らかにすべきである。まずは、NOAAがその推計方法を明確に公開するところから始めねばならない。そして推計においては、最良推定値だけではなく、誤差幅も推計すべきである。再分析の方法論としては、日本では近藤純正先生が深く研究して確立してきたことは既報で述べた(https://www.canon-igs.org/article/20191017_6033.html)

 そのような再分析の結果として、もしもNOAAの1980年以降の温度上昇データが誤っていることがはっきりすると、これは温暖化問題の研究・政策に対して大きなインパクトがある。

 研究面については、NOAAデータを入力として1980年以降の地球温暖化がCO2によるものだとしてパラメータをチューニングした大循環モデル(GCM)シミュレーションは、将来のCO2による温暖化を過大評価することになる。これまでGCMシミュレーションの結果が殆ど上振れで外れてきたことは、まさにこの状況に陥っていることを示しているように思われる(http://ieei.or.jp/2019/10/opinion191004/)。

 そして、GCMシミュレーションが間違っているとなると、これは当然、パリ協定や温暖化対策計画の長期目標といった政策の再検討につながる。




注1)対流圏下部、高度2kmの観測値。

注2)リモートセンシングについてはUAHとRSSの2つのデータセットが存在する。地上気温についてはNOAA以外にもNASAのGISや英国ハドレーセンターのCRU等が存在するが、使用する生データやデータ補正の方法や課題については共通点が多いようである(データセットについて詳しくは(D'Aleo, 2016))。本稿ではNOAAを測候所による地上の気温測定のデータの代表的なものとして議論を進める。

注3)より正確に言えば地上全体の気温と地球全体の気温は海がある分だけ異なる。ただしここでの文脈ではこの違いは重要ではない。

注4)https://www1.ncdc.noaa.gov/pub/data/uscrn/documentation/program/X030FullDocumentD0.pdf

注5)なおNOAAの補正には、infilling, adjustment, homogenizationなどいくつかあるが、本稿では最も重要と思われる都市化の補正について述べる。

注6)研究者による指摘として、例えば、(Pielke et al., 2007)

注7)最近の研究者による指摘として、(Watts, 2017)。邦文で分かり易く一般向けに書かれたものとして、(渡辺正, 2018) 2章、(マーク・モラノ, 2019)7章

【参考文献】

・D'Aleo, J. S. (2016). A critical look at surface temperature records. In Evidence-Based Climate Science: Data Opposing CO2 Emissions as the Primary Source of Global Warming: Second Edition (pp. 11?48). https://doi.org/10.1016/B978-0-12-804588-6.00002-1

・Pielke, R. A., Davey, C. A., Niyogi, D., Fall, S., Steinweg-Woods, J., Hubbard, K., ... Blanken, P. (2007). Unresolved issues with the assessment of multidecadal global land surface temperature trends. Journal of Geophysical Research Atmospheres, 112(24), 1?26.https://doi.org/10.1029/2006JD008229

・Watts, A. (2017). Creating a False Warming Signals in US Temperature Record. In J. Marohasy (Ed.), Climate Change The Facts 2017.

・マーク・モラノ. (2019). 地球温暖化の不都合な真実. 日本評論社.

・渡辺正. (2018). 地球温暖化狂騒曲: 社会を壊す空騒ぎ. 丸善出版.