メディア掲載  国際交流  2019.10.01

広がるAIの活用領域/「危険性」認識し開発を

電気新聞「グローバルアイ」2019年10月1日掲載

 この夏、ロボット関係の学会に参加し、また現地に集まる研究者と面談するために欧州を訪れた。

 学会では細分化された各専門領域で優れた研究を続ける人が集まったせいか、恥ずかしながら初めて知る研究項目や研究者にも出会うことができて、うれしい経験となった。同時にロボット技術の範囲の"広さ"と、細分化された領域に携わる人の研究項目の"深さと狭さ"との距離を実感して、この研究分野での"競争"と"協力"の大切さを感じている。ある研究者が「栗原さん、発表は難しいですね。詳細に話すと"複雑すぎる"と言われ、逆に分かりやすく話そうとすると"何だ、そんな簡単なことか"と言われますから」と語ったことが忘れられない。


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 ここで大切なのは「何が技術の最終目的であるか」を明確することだ。その意味で、「人を幸福にするためのロボットはいかなるもので、その実現にはいかなる政策や企業戦略が必要か」を探究するための情報交換と議論が重要なのだ。

 もちろん情報交換には人工知能(AI)に関するものも含まれる。なぜなら近年におけるAIの急速な発展で経済社会全体が大きく変わろうとしているため、変わりつつある社会の中でロボットが果たす役割も同時に変わってくるからだ。

 第3次ブームの中でAIに関する文献が質はともかく量に関して溢れかえっている。その中で最近、筆者が情報交換し、議論しているのは内外で高い評価を受けた報告書だ。例えば世界知的所有権機関(WIPO)が年初に発表した報告書は、現在のAIブームを「AIにおけるルネサンス」と称して、交通や医療等のAIが適用される分野を20選び出し、将来像を探ろうとしている。またOECDのデジタル経済政策委員会(CDEP)の下でまとめられ、6月に公表された報告書は、農業や金融等の10分野に関し現状分析を行い、各国が採るべき政策に関する助言を列記している。

 ロボット技術はAI同様に経済分野だけでなく我々の日常生活の領域にまで活用領域が広まっている。こうした中、優れた AIを内蔵し、人を幸福にするロボットはいかなるもので、人はロボットと共同でいかなる社会を構築すべきか、我々は世界の人々と共に考えなくてはならない。

 筆者が考える「人とロボットが共同して築きあげる国際社会」とは、苦しい単純作業は"賢い"ロボットに任せ、各個人が個性溢れる創造性を持ち、経済的に豊かで幸福な生活を享受できるような国際社会だ。こうした国際社会では、いかなる国においても人が "経済的欠乏からの自由" "死と病という恐怖からの自由" "尊厳ある人間生活" という幸福を享受できる状態を保障するものであろう。


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 留意しなくてはならないのは、ロボット技術が軍民両用技術である点だ。すなわち国家間の武力衝突や国内の治安維持活動のため、警戒網を巧みにかいくぐり攻撃するドローンや自由な議論を盗聴して各人の動きを追尾する監視ロボットが開発される危険性が存在する。これらは前述の"人を幸福にする"目的と対立する方向に開発されたロボットだ。この危険性を十分認識して情報交換を行ない、技術開発に取り組む必要があると筆者は考える。