コラム 国際交流 2019.09.26
9月4日から6日までの3日間、ロシア極東の街ウラジオストクで、今年も「東方経済フォーラム」が開催された。第5回という節目を迎えた今回のフォーラムでは、「極東―開発の地平線」をメイン・テーマに、パネルディスカッションや円卓会議など、100以上のイベントが開催された。参加者の数も、世界65カ国から8,500人を超え、過去最多を記録した。
昨年は、中国の習近平国家主席がメイン・ゲストとして、1,000人超の代表団を引き連れてフォーラムに参加し大きな話題となったが、今年は同氏は参加せず、参加者の数も中国からは395人にとどまった。最も多かったのは日本からの参加者588人で、これは昨年の参加人数を上回り、過去最多である。次に多かったのが中国からで、その後は韓国から285人、インドから204人、モンゴルから69人と続いた。なお、ロシア外務省が指摘しているように、今回のフォーラムでは、欧米諸国からの参加も目立った。例えば米国からは65人、イギリスからも49人が参加している。
今年のフォーラムのメイン・ゲストは、インドのモディ首相であった。プーチン大統領は、昨年の東方経済フォーラムが終わってすぐの10月の時点で、早くも同首相を本フォーラムへメイン・ゲストとして招待しており、インドへの関心の高さがうかがえる。インドにとっても、今回は首相による初めてのロシア極東訪問となった。モディ首相の滞在中には、プーチン大統領は同氏と連れ立ってズベズダ造船所を視察するなど、首脳同士の友好関係をアピールしたほか、露印首脳会談では、武器やエネルギー分野での協力関係の強化で合意した。
その他の各国首脳としては、本フォーラムの常連となっている日本の安倍首相とモンゴルのバトトルガ大統領のほか、マレーシアのマハティール首相が今回初参加となった。また、韓国から洪楠基(ホン・ナムギ)副首相兼企画財政部長官、北朝鮮から李竜男(リ・リョンナム)副首相、ベトナムからチン・ディン・ズン副首相らが参加した。今回は、国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティーノ会長も参加し、フォーラムの会場である極東連邦大学の敷地内にサッカースクール開設の意欲を示すなど、参加者の中には幅広い顔ぶれが見られた。なお、ロシアからは、プーチン大統領やロシア極東を統括するトルトネフ副首相をはじめ、大臣14名、連邦構成主体の首長21名らが参加した。
9月5日には、「海と陸の大動脈がもたらす新たな極東開発」と題し、日露ビジネス対話のセッションが開催された。今年も多くの参加者が来場し、活発な意見交換が行われた。日本からは、経団連の朝田照雄・日本ロシア経済委員長(丸紅常任顧問)やトヨタの内山田竹志会長、三井物産の飯島彰己会長、日本航空の植木義晴会長など多くの財界人が参加したほか、世耕弘成経済産業大臣や片山内閣府特命担当大臣(地方創生、規制改革、男女共同参画)、平井伸治鳥取県知事らが参加した。ロシア側からも、露日ビジネスカウンシルのレピク議長、ロシア鉄道のベロジョロフ社長、AEONコーポレーションのトロツェンコ会長、また、ロシア開発対外経済銀行(VEB)幹部や日本企業の誘致に関心の高い地方の首長のほか、オレシキン経済発展大臣とヤークシェフ建設・住宅公営事業大臣も参加した。
日露の意見交換の中では、ロシア側から、「アークティックLNG2」事業など、伝統的なエネルギー分野での日露協力が進んでいることを歓迎する意見のほか、シベリア鉄道を使った日本から欧州へのコンテナ輸送や観光、都市環境、キヤノンメディカルのロシア事業強化に象徴される医療分野など、非伝統的な分野での協力が進みつつあることに対し、高い期待が示された。輸送分野では、シベリア鉄道の電子統一システムによる手続きの簡素化と輸送日数の削減、観光分野では、電子ビザによる観光客の増加など、ロシア側の具体的な取り組みも紹介された。
日本側からは、日本の企業アンケートでは、60%を超える企業がロシア極東を極めて有望なゲートウェイとして期待していることが紹介され、その一方で、TOR(先行発展領域)やウラジオストク自由港と呼ばれる特区制度について、依然として情報が不足している点が指摘された。また、ロシア極東の課題としては、昨年に引き続き、インフラの問題、TOR等特区における税制等の優遇期間延長の問題、投資後のアフターケアの問題に課題が残る点が指摘された。また、今後ロシア極東で期待される分野として、インフラ整備、医療、農業、観光業が挙げられた。医療については、日本の健康診断・予防医療サービスを提供する「日露予防医療診断センター」が2021年にハバロフスクで開業予定であるほか、観光については、日本航空と全日空が成田とウラジオストクを結ぶ直行便を来年から就航させることもあり、ロシア側からも期待が高まっている。その他、両国の地方同士の連携について、国として予算面での後押しを望む意見なども出された。
今回のフォーラムは5回目という節目を数えるにあたって、これまでロシア極東で実施されてきた特区やその他政策の成果や課題など、制度面における総括がひとつの焦点となった。それと同時に、ロシア極東に住む人々の医療や教育、住宅など、生活の質の改善といったよりソフトな面での課題にも、これまで以上に焦点が当てられるものとなった。プーチン大統領もフォーラムの中のスピーチで、これまでの制度面での成果を強調する一方で、極東地域の医療や教育、文化面における改善の必要性について触れたほか、若い夫婦向けの住宅ローンを同地域で2%まで減免することなどを表明している。
なお、今回のフォーラムでは、北極海での「アークティックLNG2」事業への三井物産の最終投資決定が調印されたほか、日本の国際協力銀行(JBIC)とVEBの間で輸出クレジットラインに基づく2件の個別貸付契約が締結されるなど、フォーラム全体では、総額3.4兆ルーブル(およそ5.7兆円)、270件の合意文書が交わされた。