メディア掲載  エネルギー・環境  2019.09.17

温暖化問題に関して安全科学研究部門への期待

RISS(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門)ニュースレター第35号(2019年8月5日発行)に掲載

 産総研にお願いしたいことを3点述べたい。

 第1は再エネルギー政策について。先ずは、過去の総括をしてほしい。日本はサンシャイン計画からFITに至るまで長く政策を実施してきた。結果、PVの大量導入は実現した。しかし、買取費用総額は年間3.6兆円を超えている。また日本メーカーは世界市場を獲れなかった。どこを間違えたのか。今後に向けての教訓は何か。次いで、再エネルギー政策の今後についての戦略を立ててほしい。いまFITの抜本的な見直しが進められている。これまでは再エネルギーは優遇されてきたが、これからは実力で戦わねばならない。天気次第の太陽・風力は、せいぜい化石燃料を焚き減らすぐらいの価値しかない。これを直視した上で、どのような技術開発戦略・普及戦略があるのか。政治家やメディアに受ける、希望的観測のポンチ画餅ではなく、現実的な戦略を提示してほしい。

 第2はテクノロジーが地球環境問題を解決する道筋を示してほしい。テクノロジーは、人類に、健康、長寿、経済的繁栄をもたらした。またテクノロジーは公害も引き起こしたが、その解決策にもなった。温暖化問題もテクノロジーがもたらしたが、やはり解決もテクノロジーによるほかない。このリスク管理戦略、開発戦略を構築してほしい。

 テクノロジーは既往のテクノロジーの組み合わせで生まれ複雑系をなして成長する。いまAI、IoTなどのデジタル技術が急速に進歩し、自動車革命で大幅なCO2の削減が期待されている。同様の変化は経済全体で起きる。経済的繁栄と低いCO2排出を両立するにはどうすればよいか。

 ここで重要なのは規制の在り方だ。イノベーションを最大限可能ならしめる一方で、個人情報保護等に加え、CO2削減の要請にも答えねばならない。 日本の電車網は、経済と低CO2を両立したよい前例だ。同様な優れた発展が出来るはずだ。

 材料技術、バイオテクノロジーも、急速に進歩しており、大いに温暖化対策に寄与しうる。ここでも適切な規制がカギとなる。温室効果ガス排出量の3割から5割は食料供給に関係するが、バイオテクノロジーがフル活用されればこれは大幅に減らせる。バイオテクノロジーが否定されるならば、この機会は失われる。

 第3に、温暖化問題のリスクを総合評価してほしい。温暖化対策の費用は今や巨額になったので、経済成長や安全保障に与える悪影響がむしろ心配である。それから、温暖化によるリスクの評価も再検証が必要だ。温暖化は、かつて言われていたよりも、ゆっくりとしか起きていない。顕著な被害は出ていないし、今後もそれほどひどい被害になりそうにない。シミュレーションによる不吉な予測は多々あるけれども、一定の条件と限られた知見の下での結果に過ぎないことも多い。それらを冷静にメタ分析して、本当に何がどの程度危ないのか理解する必要がある。政治目標が2度とか80%のCO2削減と決まっているからそれを出発点にするというのでは、リスク科学になっていない。政治目標の妥当性も検証が必要だ。


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