論文 財政・社会保障制度 2019.09.11
本稿は、地方税業務におけるAI-OCRの活用の現状について検討する。
筆者は、これまでも地方税業務の効率化を検討してきた。月刊税2014年11月号「個人住民税特別徴収の推進の取り組みと今後の方向性」では、個人住民税特別徴収の強制指定を推奨し、月刊税2018年1月号「地方税業務の民間委託 成功への道-個人住民税特別徴収業務を素材として-」では、個人住民税特別徴収業務の民間委託の方向性を検討し、月刊税2019年1月号「デジタル革新時代の地方税務の効率化―RPAやAIを活用してー」では、個人住民税特別徴収業務やふるさと納税業務を題材にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による業務効率化を述べた。本稿はこれらの続編である。
こうして繰り返し地方税業務の効率化を唱える背景には、自治体の職員の減少への懸念がある。筆者が最初に自治体職員が減少していくことに気付いたきっかけは、2000年ごろの退職債の起債の増加である。当時の筆者は、退職債の起債が増えるということは、退職人数よりも採用人数を増やさない限り自治体職員は減少し、財政も厳しくなると考え、それ以降、ITやBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング、業務の見直しのこと)やNPM(ニュー・パブリック・マネジメント)、ABC(アクティビティ・ベースド・コスティング、活動基準原価計算)などの手法を用いて、効率化を検討してきた。
1994年には85,000人程度いた税務職員が2016年には70,000人程度にまで減少した。1994年には住民10,000人に対して6.8人の税務職員で対応していたのが、2016年には5.5人で対応していることになる。多くの自治体は、団塊世代の退職者の増加だけでなく、バブル経済崩壊後に数年にわたって採用を控えたので、今後も自治体職員は減少する。人材不足を補うには、デジタル化による税務業務の効率化や民間委託は必須である。
2000年ごろと異なり、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの技術革新が時代に追いついてきた。従来のOCRといえば、読み込み機能があって、書類を読み込んだ後に、パソコンで読めなかったエラーデータを修正していくのは当たり前であった。筆者もパソコンの前で来る日も来る日もデータ修正していた。どんなに企業が努力をして製品を開発しても、100%の識字率は夢のまた夢と思っていた。AIについても、すでにAIという言葉はあって、周りにAIの研究者がいたが、実現化は遠いと思っていた。しかし、AIの進化が進み、OCRはAI-OCRとなり、識字率が格段に向上し、手書きも十分に読めるようになってきた。AI-OCRだけでも業務は効率化されるが、RPAと組み合わせることで、さらなる効果が見込めるようになってきた。
本稿では、個人住民税特別徴収を題材にAI-OCRとRPAの現状を把握し、臨時職員やアルバイトの活用と民間委託と比較し、効率化手法を検討する。そして、さらなる効率化への課題を検討する。第1章では、個人住民税特別徴収の課題である強制指定について検討する。第2章では、個人住民税特別徴収業務の現状を把握する。第3章でAI-OCRとRPAの現状を把握し、臨時職員やアルバイトの活用と民間委託と比較し、効率化について検討する。第4章では、さらなる今後の効率化を検討する。