論文  国際交流  2019.08.01

安定成長への道を模索する中国~経済リスク・コントロールの重点~

『月刊資本市場』 2019年7月号(公益財団法人資本市場研究会)に掲載

<目次>

  • はじめに
    1. 1.経済成長速度の鈍化
      2.対外摩擦の長期化・広範化
      3.不動産バブルの破裂
      4.債務問題
      5.高齢化と財政の持続可能性
      6.「中所得の罠」
  • まとめにかえて

  • はじめに

     中国経済は、2011年頃から成長スピードの鈍化が鮮明になっている習近平・李克強政権は、当時の経済成長の減速は一時的なものではなく、中国経済は、①高度成長から中高速成長への転換、②経済構造調整がもたらす生みの苦しみの発生、③前政権が発動した経済刺激策の消化、の3つの事象が重なり合った難しい時期にあると捉え(張編、2015)、「供給サイドの構造改革」を推進することで、安定成長への移行を実現しようとしている。当該改革の対象は、40年に及ぶ経済制度改革と対外開放の取組みを経ても、なお残っている、あるいはさらに複雑化した難題であり、関係者にはより本腰を入れた検討と対応が求められている。

     他方で、中国の市場開放政策は、総じてみれば世界的に好感をもって受け止められ、これまで中国自身の高度成長を牽引しただけでなく、経済のグローバル化を進展させる上でもポジティブな役割を果たしてきたと評価できる。しかし、ここ数年、同国の国際的なプレゼンスが高まる中で、その貿易政策や市場開放方針に対する諸外国の見方が厳しくなってきている。中国に投資した企業の知的財産権や経営自主権の保護をより明確にする制度構築が求められている一方、中国企業の対外投資も、投資先の国や事業によっては、かなり警戒的な目で見られることが増えつつあり、事業の丁寧な推進が求められるようになっている。

     中国経済が直面する金融経済関連のリスクは多岐にわたっているが、本稿では安定成長への移行過程においてとくに重要と考えられる、①経済成長速度の鈍化、②対米経済摩擦の長期化・広範化、③不動産バブルの破裂、④債務問題、⑤少子高齢化と財政の持続可能性、⑥「中所得の罠」の6点について、リスクの現状を概観する。・・・


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