メディア掲載  グローバルエコノミー  2019.07.04

軽減税率の問題点

共同通信より配信(2019年6月)

 本年10月1日、消費税の8%から10%への引き上げが予定されている。消費税率の引き上げは法律に明記されていたにもかかわらず、安倍内閣は、政治的思惑から、2014年と16年の2度にわたってそれを延期してきた。今回も、夏の参議院議員選挙を控えて、政権周辺から表明されるさまざまな発言を考慮すると、予断を許さない状態といえよう。

 一方、政府は10月の税率引き上げに向けてさまざまな準備を行っている。その一つが軽減税率制度である。現在予定されている制度では、「酒類・外食を除く飲食料品」と「週2回以上発行される新聞」(定期購読契約に基づくもの)が対象とされ、これらについては税率が従来の8%に据え置かれることとされている。

 飲食料品に対する軽減税率制度は、政治的アピールを狙ったものと見られるが、問題が大きい。

第一に、品目によって異なる消費税率を適用することは徴税コストを大きくする。そしてそのコストの負担は国税当局だけでなく納税者に及ぶ。飲食店だけでなく、飲食物の仕入がある業者は、その品目を確認し、帳簿上、区分経理を行う必要がある。そしてそのために複数税率に対応した新しいレジ用機械を導入しなければならない場合もある。さらに、この点は誤解されがちだが、飲食料品の消費額は高所得者の方が大きく、したがって軽減税率の恩恵は高所得者により大きく及ぶことになる。

 所得分配の不平等の是正や一時的な景気対策を目的とするなら、消費税の品目毎の軽減ではなく、高所得世帯を除外した一律給付等の直接的な施策を選択すべきである。詳しくは、筆者を含む経済学者・政治学者による「軽減税率に関する緊急政策提言」を参照していただきたい。