コラム  国際交流  2019.04.02

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第120号(2019年4月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 3月下旬、ノーベル平和賞を受賞したマララさんが国際女性会議(World Assembly for Women, WAW!)に出席するため訪日した事が大きく報道された。同時開催のWomen 20 (W20)とハーバード大学総長の訪日を機に開催された行事に参加する友人--アンジェラ・カン(姜周賢/강주현)氏--も訪日し、久しぶりに語り合うことが出来た。

 彼女は韓国出身の"輝く女性"の一人で、Harvard Kennedy School (HKS)で"企業の社会的責任(CSR)"を学んだ後、韓国政府や企業に対し助言を行っており、弊所(CIGS)も過去に何度か講演をお願いした事がある。W20の主要メンバーとして世界各地を巡る彼女は、今回は東北地方に訪れるとのこと。彼女を含め国際感覚に優れた韓国の友人達と、胸襟を開いて内外事情を、冷静かつ自由に語れる日が訪れる事を願っているのは筆者だけではあるまい。


 欧州を蔽(おお)う暗雲が一段と色黒くなっている。そしてシャンゼリゼ通りのカフェ(Fouquet's)が燃えている映像を見て悲しんでいる。パリの友人達に次のようなメールを送った。

 「マクロン大統領が行なった2017年9月のソルボンヌ大学講演"欧州のための新計画(«Initiative pour l'Europe»)"や今年3月の"欧州ルネサンス宣言(«Pour une Renaissance européenne»)"は知的で素晴らしい。だが"現実味が無い(détaché de la réalité)"ように映っている」と伝え、続けて敬愛するアンドレ・モロアの言葉を送った--「リーダーにとって重要な事は、細部にわたって意思決定にかかわる知識を持つ忠実な"補佐集団"を持つことである。森の全体像が木々の情景によって邪魔されぬように、リーダー自身は細部に囚われて全体を見失ってはならないのだ(Il importe que le chef, autour de lui, réunisse une équipe qui lui soit toute dévouée et qui sache prendre les décisions de détail. Il ne doit pas permettre aux arbres de lui cacher la forêt.)」、と。


 3月初旬、米国Brookings Institution主催の会合で中国経済--GDP統計の誤差--に関する研究が報告された。

 それはシカゴ大学の宋铮(Zheng (Michael) Song)教授と香港中文大学の謝昌泰(Chang-Tai Hsieh)教授とが学生達と共に著した論文("A Forensic Examination of China's National Accounts")だ。以前から中国の統計に関し、過大或いは過小推計である事が内外で指摘されてきたから驚く事ではない。逆に筆者が驚いたのは、友人達から日本の統計の不正確さを指摘された事だ。筆者は、苦しまぎれに吉田茂首相がマッカーサー元帥に語ったジョークで切り抜けた次第だ--敗戦直後の日本は食糧難で多数の餓死者が懸念される中、GHQに食糧援助を大量に要請した。だが、結果的には要請の4分の1で危機を乗り切ったため、元帥は首相に日本側の杜撰な積算に関し難詰した。これに対して吉田首相は「戦前にわが国の統計が完備していたならば、あんな無謀な戦争はやらなかったろうし、またやれば戦争に勝っていたかもしれない」と応えたらしい。吉田首相は後年「故意または無意識のうちに、自分に都合の良い数字だけを発表するという、戦争中からの名残り」と記している。


 小誌新年号で触れた中国海軍(PLAN)に関する本(Red Star Over the Pacific)の著者トシ・ヨシハラ氏が訪日した機会を捉えて、彼に直接口頭で質問する事が出来て喜んでいる。

 ヨシハラ氏は①中国の大戦略におけるPLANの戦略の位置付け、②中国の夢とPLANの戦略、③アジア太平洋海域での複雑で常在的な中国問題を我々聴衆に説いた。講演後筆者は(①に関連し)PLANの戦略とCyberや宇宙等、大戦略上の領域間の経済的・人的資源の競合、また(③に関し)高齢化に伴う「未富先老」等の国内問題等を質問したが、彼が丁寧に答えて下さった事に感謝している。また彼の講演を聴いている間、筆者は昨年秋に開催されたBrookings Institutionでの公開討論--「米中間の国益は対立するのか、或いは両立出来るのか」を"The China Debate: Are US and Chinese Long-term Interests Fundamentally Incompatible?"と題し、エヴァン・メディロス教授やディヴィッド・ランプトン教授等の専門家が論じた会合--を思い出していた。
 米中関係が厳しくなればなるほど、日本を含む世界全体が緊張感に包まれることは明白だ。これに関し海外の友人達から筆者の考えを尋ねられた。それに対して慎重ながらも希望的観測を述べた--3月15日の全国人民代表大会(全人代)閉幕後、TVニュース(CCTV大富)で全人代の報告を観ていると、バックグラウンド音楽として米国大統領が活躍するハリウッド映画(Independence Day, 1996)のテーマ曲が流れてきた事を伝えた。そして中国専門家のシャンボー教授の著書(Beautiful Imperialist; «美丽的帝国主义者»)に触れ、「中国にとって米国はいつまでたっても"美国(beautiful country)"だよ。ボクは両国の政策担当者が平和と繁栄を継続させる妙案を案出してくれることを切に祈っている」、と友人達に伝えた次第だ。



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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第120号(2019年4月)