メディア掲載  エネルギー・環境  2019.03.22

イノベーション、経済成長、環境技術

一般社団法人 日本エレクトロヒートセンター 隔月刊「エレクトロヒート」 No. 224 (2019) に掲載

 イノベーションとは何か、経済成長とは何か。環境技術とは、どのようにすれば生まれるのか。その為の政府の役割は何か?セザー・ヒダルゴの「経済複雑性」理論を紹介し、政策の在り方を論じよう。


1. 経済成長とは何か?

 経済学者は経済がなぜ成長するのか良く分かっていなかった。資本が蓄積され労働が投入されると経済は成長するが、それだけではなぜ長期的に目覚ましい経済発展をするか、理解できなかった。その差を埋め合わせるために「全要素生産性」という項が発明されて、時間と共に増加するとされたが、辻褄合わせに過ぎず、「無知の尺度」と経済学者クズネッツは自嘲した。

 やがて2018 年のノーベル経済学賞を獲ったポール・ローマーが現れ、研究開発投資によって知識が増えていくという定式化をした(Romer、1990) 。だが相変わらず、肝心のこの「知識」の中身はブラックボックスのままであった。他にも人的資本や社会関係資本等によって経済成長を説明する試みもなされたが、不完全なものだった(セザー・ヒダルゴ、2017)。

 他方でブライアン・アーサーやスチュアート・カウフマンが創始した複雑系理論では、新しい知識とは既存の知識が組み合わさって出来るものであり、その結果、生物の進化と同様に、知識の表現型である技術も進化し複雑性を増すものである、とした(スチュアート・カウフマン、2002)(ブライアン・アーサー、2011)。

 その上でアーサーは、経済は技術の表現型に他ならない、経済も進化する複雑系である、とした。だがそれを現実に測定するには至らなかった。これを成し遂げたのがヒダルゴである。

 以下、本稿では、まずヒダルゴの理論を紹介する(ただし概略なので、詳しくは文献を参照されたい)。次いで、その政策的な意味合いについて議論をしよう。・・・


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イノベーション、経済成長、環境技術