メディア掲載 国際交流 2019.03.01
今年に入って雲行きが一段と怪しくなってきたのが世界の政治経済だ。2月11日、ドイツのミュンヘンにあるIfo経済研究所の知人から世界経済調査(WES)が送られてきた。この調査は約1300の世界各地の専門家からの意見を基に世界経済の現況を四半期ごとにまとめたものだ。これによると、これまで比較的堅調だった米独蘭の3カ国には"かげり"が生じ、日仏両国でも曇天となり、英中露の3カ国は既に苦境の真っただ中である。
2月中旬、同じくミュンヘンから国際政治に関する不協和音が聞こえてきた。例年2月に開催されるミュンヘン安全保障会議(MSC)に関し海外メディアは、今回出席したマイク・ペンス米副大統領と前職のジョー・バイデン氏の発言を対比させ、「米国内の分断」を伝えた。それに加えて米露間のみならず、米欧間の亀裂も露呈したことが報じられている。皮肉なことにMSCの今年の主題は「誰が関係修復を行うか?」だが、慧眼の読者には今のところ「誰もいない」ことが明らかであろう。
政治経済が国際的に分断・悪化する中、産業・技術分野も協力から競争に重心がシフトしてきている。冒頭で触れたWESが公表された2月11日、トランプ大統領は人工知能(AI)に関する米国の優位性を堅持するための大統領令に署名した。この大統領令ではAIが経済・安全保障、そして国民の生活水準を高める重要な技術と位置付けて、当該分野における米国の優位性を維持・向上させる政策を指示している。
そして同令はAIを振興する連邦政府(国防を筆頭に商務、保健福祉およびエネルギーの各省、そして航空宇宙局と科学財団)が、ホワイトハウスに直属する行政予算管理局および科学技術政策局と協力し、研究開発(R&D)計画を実施するよう求めている。
こうした情報を基に、筆者は現在内外の友人たちと次のような情報交換を行っている。すなわち①大統領令がいかなる形で具体的施策に反映されるのか②米国のAI関連政策の変化に呼応して、中露両国さらには欧州のAI開発戦略はどのように変化するのか③上記の変化に対し日本はいかなる形で対応すべきか――。以上3点である。
大統領令が示す通り、経済のみならず、AIは安全保障および国民生活に活用される汎用技術だ。このためAIは、双方に"ウィン・ウィン"を実現する経済分野と同時に、互いに勝敗を決する"ゼロ・サム"の国防分野が絡むため、世界各国が開発に競争心・対抗心をむき出しにしてくる危険性がある。しかも現在のように政治経済環境が厳しくなると、疑心暗鬼が生じ、対抗意識が強くなるのは当然のことであろう。
こうした中、我々日本の役割が重要となってくる。米中露が互いの対抗意識からAI開発を軍事中心に進める中、日本は民生分野を重視してAI開発の主導権を握ることができるのだ。特に①高齢化社会における自立支援・介護分野②一層の効率化・安全化を狙った陸海空にわたる運輸交通分野、さらには③窃盗・暴行等の防犯分野――。以上3分野の開発・活用に注目している。こうした民生分野でのAIに関し、より多くの人々が関心を抱くことを願っている。