2050年か2100年か分からないが、ロボットやAIが働き、今より遥かに豊かになった状態を考えてみよう。
家は大きくなる。今、産油国で政府から支給される家は800平米あるという。どの国でも、お金持ちといえば大きなお屋敷を持つのが当然だった。だから豊かになれば、皆が大きな家を持つと予想する。
掃除や手入れが大変などということはない。それはロボットがするからだ。昔のお屋敷といえば、使用人が何十人もいた。だがこれは、豊かになると逆にできない。人件費は途方もなく高くなる。だがロボットはとても安いので、大勢雇える。
家庭用のエネルギー消費はどうなるか。照明のエネルギーは少なくて済みそうだ。LEDよりもさらに効率の高いレーザ照明になるし、照明は人間の必要な所だけ照らすように制御されるからだ。
ディスプレイ用のエネルギーも少なそうだ。液晶よりも効率の良いレーザディスプレイになり、その後は網膜走査レーザになる。これは目に入らないような無駄な光子を作らないので、今よりもずっと省エネになる。
冷暖房等の空調はどうだろうか。これも、少なくて済みそうだ。もちろん、巨大なお屋敷ならそれだけ空調の負荷は増える。けれど、快適に暮らそうと思ったら、まずは相当に断熱の良い家を建てることが普通になる。日本は気候が良いので、実はこれだけでかなりの空調は不要になる。世界でも大半の人は、暖かい所に住んでいる。寒い場所での暖房に比べれば、暑い場所での冷房の負荷はさほど大きくない。空調の負荷は、まずは外気との温度差に比例するからだ。それから、空調も人工知能が担うようになると、人を追いかけ、人の居る所だけを快適にする。すると、かなり効率は良くなる。
給湯はどうか。煮炊きに使う量は知れている。洗濯もロボットがやるなら、かなり効率良くなる。
問題はお風呂だ。日本は世界一のお風呂好きで、1人当たりのお湯の使用量も多い。世界が皆大きな湯舟に浸かるとなると、かなりの消費量になる。
幸い、世界では、同じことをする民族は少ない。けれども、アメリカでは温水ウォーターベッドがかなり普及している。家庭用の温水プールがある人もいる。他にも、イギリスの貴族の中には屋内にビリヤード場がある人もいる。また、空調の効いた自家用テニスコートのある米国人もいる。こういうことを始めると、家庭用エネルギー消費は止まるところを知らない。
人はどんな暮らしをするのか。AIやロボットが働くようになったら、人は一体何をするのかと問う人がいるけれども、実はこの答えは想像がつく。
今も昔も、働かずに暮らす人は沢山いるからだ。それには、貴族、地主、成金、それに物乞いなど、多様なパターンがある。
英国貴族の日記文学や、江戸時代の地主の日記を読むと面白い。普段やっていることは、政治、人付き合い、揉めごとの相談等、対人関係の仕事がほとんどである。あとの時間は、旅行をする、道楽や趣味をする、といったことに充てられる。道楽や趣味は幅広く、音楽、絵画、文学、それに歴史、天文、博物、数学などの研究、狩りに釣り、料理に宴会、そして、飲む、打つ、買う、となる。
どんなにロボットやAIが働くといっても、対人関係や意思決定の仕事は必ず人間に残る。これに使う時間がそれほど多くない人でも、踊ったり歌ったり、釣りをしたり、研究したり、あるいは旅をしていれば、人は「やることがない」とはならない。人間は、本能的にこういった活動が好きなのである。
仕事に関しては、人間はできる限り楽をしようとするだろう。バーチャルリアリティがあれば、会議のためにわざわざ出張はしない。だから、出張のためのモビリティは少なく、また固定したオフィスも存在しなくなる。このエネルギー消費は少なくて済む。
問題は、人が遊ぶために必要な物資を作り続けるためのエネルギーである。これは、今の分類でいえば、産業用や業務用のエネルギー消費となる。それはロボットを駆動するエネルギーや、そのロボットが製造し操作する設備のエネルギーである。
人々に豪邸を建築し、美食を準備し、快適な旅行を提供するために、ロボットは休みなく働き続ける。
際限なく豊かな生活は、いつかは分からないけれど、技術進歩は不可逆なので間違いなく訪れる。そこで人がどう暮らすかは想像ができる。政治や訴訟などの対人調整や意思決定は人間の仕事として残り、そこで環境保護の方針も決められる。際限ない豊かさのもとでは、今よりも遥かに高いレベルでの環境保護が実施されるだろう。