メディア掲載  グローバルエコノミー  2018.11.30

「アイディア」と経済成長

共同通信より配信

 2018年度のノーベル経済学賞は、米ニューヨーク大のポール・ローマー教授と米エール大のウィリアム・ノードハウス教授が受賞した。長期の経済成長に関する研究が評価された。

 今回の受賞につながったローマー教授の主要な業績は、技術革新を経済成長モデルの中に組み込んだ「内生的経済成長モデル」の研究である。

 それまでの標準的な経済成長モデルでは、成長率は技術進歩と人口増加によって決まり、しかも技術進歩はモデルの外から所与の条件として付け加えられていた。そのため、従来のモデルは、成長率の理論的な分析ができないという本質的な問題を抱えていた。この問題を解決したのがローマー教授の内生的経済成長モデルである。

 経済成長理論を含めて、経済学では財の生産を、それに必要な資本や労働等の投入と結びつける生産関数という関数を想定する。

 ローマー教授のモデルの特徴は、普通の財の生産関数と並んで、「アイデア」という特別な財の生産関数を導入する点にある。アイデアはその生産に従事する労働力、簡単にいえば研究開発をする人々の労働力の投入によって生み出される。

 そして重要な点は、生産されたアイデアがそれを生産した人や企業だけでなく、広く経済全体で利用されることである。アイデアのこうした独特の性質が、経済の持続的な成長をモデルの中で説明する際の鍵になる。

 ローマー・モデルには明快な現実的含意がある。経済の持続的成長のためには、アイデアを生産する活動、すなわち研究開発に資源を配分し、生産されたアイデアを利用しやすい環境を整備する必要があるというものである。30年近くにわたって成長率が低迷している日本経済にとって本質な意味を持っている。