コラム 国際交流 2018.11.02
◇ 5月中旬のムニューチン国務長官・劉鶴副総理会談の成果がトランプ大統領によって覆されて以降、中国は貿易摩擦鎮静化のための有効な交渉ルートを失っており、米中貿易摩擦は、当面新たな進展を期待することは難しいとの見方が大勢である。
◇ ワシントンDCを中心に米国の対中感情は、本年入り後急速に悪化している。一帯一路、技術強制移転政策、中国製造2025、知的財産権の侵害・技術の盗用などが批判の対象となっている。
◇ 米国内で本年入り後、急速に反中感情が国民全体に広がった主な要因は次の3つである。①第19回党大会における習近平主席スピーチ、②憲法改正による総書記の任期制限の撤廃、③米国国防総省の中国政府技術移転政策批判文書。
◇ 米国の一般庶民の間では根拠が明らかではない中国に関するネガティブな情報がSNSを通じて増幅されている。トランプ政権の中枢を占めている人々の中には中国の実情に詳しい人が殆どいないため、こうした庶民の間で広がっている情報に強い影響を受けて判断し、対中強硬姿勢をとっているケースが多いと見られている。
◇ 膠着状態にある米中貿易交渉の現状が変化し、米中双方が歩み寄るためには、米国トランプ政権側の強硬姿勢および中国側の対応に以下の変化が生じることが必要であると見られている。①米国景気の変調による株価の下落、②中間選挙における与党共和党の敗北、③中国政府が米国からの構造改革要求を受け入れて改革を実施。
◇ トランプ政権が中国に対する強硬姿勢を保持している背景は、足元の米国経済状況の良好さと株価の上昇が大きな要因である。米国経済の良好な状況とそれを背景とする株価の上昇が続く限り、米国の強硬姿勢に変化が生じることは期待できず、中国側としても打つ手がない状態が続く可能性が高いと予想されている。
◇ 米国経済の減速、それに伴う株価の下落等をもたらす可能性のある要因としては、以下の点が指摘されている。①関税引き上げによる米国内企業の業績悪化、②米国内企業(外資を含む)に対する貸出削減、③ドル高に伴う新興国通貨不安。
◇ 米国が反中感情に染まった原因は米国の一極覇権国家としての地位が揺らぐことへの懸念が根底にある。中国の経済成長が続く限り、米国にとって経済・軍事両面の脅威が拡大し続けるため、米中関係の悪化は収束する見通しが立たない。米国の極端な対中強硬派は中国の経済成長を止めることを目標としている。