コラム  国際交流  2018.11.01

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第115号(2018年11月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 先月、最先端ロボット企業Rethink Roboticsの廃業が報じられた(次の2、MIT Technology Reviewの記事を参照)。改めて最先端技術の開発とgoing concernたる企業の経営を両立する事が如何に難しいかを悟った次第だ。

 そして今、英国で9月に開催されたAIに関する会議で、筆者が"第3次冬の時代(a third AI winter)"の危険性に触れた時、会場の人々の顔がいっせいに曇ったのを思い出している。企業経営と技術開発との難しい関係に加え、国際関係と社会倫理とが複雑に絡み合い、最先端産業を展望する事が一段と困難になってきた。次の2に示した米国の資料--会計検査院(GAO)、国防総省(DoD)、そしてホワイトハウス--の中でも、サイバー空間、人工知能等の先端技術に関し、米国は中露両国に対する警戒心を高めている。また国防総省のICT基盤整備計画(Joint Enterprise Defense Infrastructure (JEDI))に関して、企業倫理の点から「軍事利用には賛同せず」との理由で、Googleが受注競争から退くという。しかし、この軍民両用技術(DUTs)の開発問題は、一企業だけに限定されるものではないことは明らかだ。更に厄介なのは技術進歩に誘発される所得格差だ。これに関し、今月の小誌の2ではIMFのWorking Paper ("Technology and the Future of Work")が興味深い考察を行っている。
 以上のような政治、経済、社会倫理的な課題が存在しても、最先端技術は、それらを無視するかのように進歩する。現に次の2に示す通り、MITが人工知能に関し積極的な姿勢を発表している。「そして日本の対応は?」が我々の課題であろう。
 今年のノーベル経済学賞は、技術と経済成長に関し優れた業績を残したノードハウス教授とローマー教授に授けられた。小誌でもノードハウス教授の論文に4度触れ(本年9月と昨年の1, 6, 10月)、またローマー教授についても、2013年9月に言及している。両教授の知見を参考にして成長を具現化するための方策を案出する事こそが、我々の課題と考えている。


 先月8日、米国の政治学者ウォルター・ラッセル・ミード氏がWall Street Journal紙上に掲載した小論("Mike Pence Announces Cold War II")を読み、米国の対中態度が明確に表示されたものとして理解した(次の2を参照)。

 ミード氏は「米中間の高まる緊張が惹き起こす経済的混乱を過小評価せぬよう」警告した。そして筆者はハーバード大学の故ハンチントン教授の論文("Why International Primacy Matters," International Security, 1993)の中の一節を思い出している。即ち"A world without U.S. primacy will be a world with more violence and disorder and less democracy and economic growth"、と。


 世界政治に関し、先月1日、米国の調査機関Pew Research Centerが、興味深い世論調査("Trump's International Ratings Remain Low, Especially among Key Allies")を発表した(次の2参照。Financial Times紙も22日付の社説で触れている)。全体で100ページ以上あるこの調査報告書に関して、筆者が注目したのは次の4点だ。

①米国以外の調査対象25ヵ国の世論調査で、設問「10年前と比べ、次の国は重要な役割を世界に果たしたか」に関して、中国には回答者の70%が、米国には31%の人々が認めている (p. 5)。しかし、ドイツ、オーストラリア、スウェーデンの識者は米国の指導力に対し極めて厳しい評価を下している (p. 42)。米中両国以外で重要な役割を果たした国として、露独印仏英はそれぞれ41%、35%、27%、22%、21%であった (p. 38)。国ではなく個人としての指導者の評価では、メルケル、マクロン、習近平、プーチン、そしてトランプの順となった (p. 35) (前記の最後2つの設問では日本が対象外になっている!!)。

②前述したように、25ヵ国の人々が平均で70%と中国の影響力を強く感じ始めたが、特に韓国、スウェーデン、ギリシャ、オランダ、日本、オーストラリアにおいて、そうした認識を抱いている人々の比率が高い (p. 39)。

③経済力に限って見た時、世界No. 1の強国として世界の人々が認めているのは、米国が39%、中国が34%、そしてEUと日本が共に7%だ。米国の経済力を高く評価しているのは韓国、日本、イスラエル、フランス、ブラジルであり、翻って中国を評価(警戒?)しているのはドイツ、オーストラリア、カナダであった (p. 50)。

④ハンチントン教授が主張する通り「米国こそ、世界でリーダーシップを発揮する国であってほしい」と回答した人々は、25ヵ国平均で63%だ。最も賛同を示した国は日本で回答者の81%がU.S. primacyを支持している。そしてフィリピン、スウェーデン、韓国、オーストラリア、カナダ、オランダ、ポーランドが続いた。翻って中国に期待する人々は平均で19%。特に回答者の比率が高い国はチュニジア、メキシコ、南アフリカ、ナイジェリア、ロシアであった (p. 52)。


 世界情勢の目まぐるしい動きに伴い世論も激しく揺れる。この点に留意し調査結果を"おおよその目安"と考えればよいであろう。ただこの調査を通じて筆者が考えさせられたのは"日本の地位・評価"であった。


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