メディア掲載  エネルギー・環境  2018.10.19

安定・安価なエネルギーで九州発の製品を世界に-再エネに期待は持てるが拙速は禁物-

エネルギーフォーラム EP REPORT 第1932号に掲載

 九州では太陽光発電(PV)の導入が進み、5月3日、一時的に電力需要の81%に当たる621万kWがPVで賄われた。九州電力では、PVの発電量を予測し、それに合わせて火力発電所の出力を調整したり停止させたりして、電力需給のバランスを図っている。中央給電指令所では、かつて主に気温から需要予測をしていたが、今では天候、日射量からの再生可能エネルギー発電予測も併せて実施するようになり、その役割は大きく変わった。

 これ以上PVを増やすと、その出力を抑制する場面も出てこざるを得ない。さらなる導入拡大のためには、一層のコスト低減や、バッテリーの大幅な進歩などによる間欠性の解決が課題である。これはすぐにはできないが、2030年とか50年といった、地球温暖化問題で語られるタイムスパンであれば、十分に希望がある。


豊富な地熱発電の資源

 九州には地熱も豊富である。阿蘇山の北にある八丁原発電所を初め、九州電力は21万kWを擁する。日本全体では現在の52万kWから30年には150万kWにする目標が立てられている。ただし、長期的にはもっと期待ができる。日本は地熱発電の資源量では世界3位と言われ、うまく開発すれば水力発電に匹敵する発電量になるという試算がある。九州は、中でも有望である。

 地熱発電は、技術的には化石燃料による発電に対してもコスト競争力がある。しかし、有望な立地地点が国立公園内にあるために、開発には制約が多く、また温泉業や観光への配慮もあり、開発はあまり進んでこなかった。

 実際には、地熱発電所は遠目には気付かないぐらい目立たない。設備はさほど大きくないし、景観には配慮して建てるからだ。湯煙は出るが、天然の温泉と区別がつかない程度だ。PVがずらりと並ぶ風景や、風力発電のぐるぐる回る羽根に比べるならば、景観への影響はわずかである。熱源も異なるので温泉への影響も少なく、むしろ発電後の排熱を使って温水供給をして、地域の温泉業や農業との共生をしてきた。


責任感ある企業が主体に

 ということで、将来的には地熱発電にも大いに期待が持てる。ただしこれは、景観、温泉、観光など、大事な諸利益との調整を経て、地元との信頼関係を築きながら事業をする、責任感のある企業が実施すべきものであろう。

 九州には森林資源も豊富にある。バイオマス発電も、資源的にも技術的にも、化石燃料発電に対してコスト競争力があるはずだ。しかし現実には、これも補助で導入が図られてきた。バイオマス発電に価格競争力を持たせるためには、林業の活性化が課題である。九州の地理的・資源的状況であれば、林業は十分競争力のある産業になるはずであり、その残澄として得られるバイオマス燃料は、安価かつ大量に入手できて、バイオマス発電もコスト競争力をもち得る。

 だが現実には、日本の林業は政府補助に頼っており、活力が無い。このためバイオマス発電をしようにも、燃料を安定して安価に得ることが出来ない。


安定・安価こそが重要

 将来の九州のエネルギーというとき、安価で安定したエネルギーとすることは極めて大事である。かつて九州には、半導体工場などが多く立地したが、今ではかつての勢いはない。対照的に台湾では、電子産業は全電力消費の18%を占める最大の電力多消費産業に成長した。

 残念ながら、日本ではこれは起きなかった。理由は多くあるけれど、台湾では安定・安価な電力が供給されていたことが、コスト競争力に寄与したことは間違いない。いま、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などの発達で、世界中で設備投資が起きている。ぜひ、これを九州で実現してほしい。それには安定・安価な電力は一つの条件となる。

 このためには、原子力や石炭火力発電の役割がやはり重要である。再エネは、長期的にはコストを増加させることなく導入を拡大できると期待するけれども、拙速はいけない。これまでのところ、PV、地熱発電、バイオマス発電のいずれも、巨額の補助で強引に発電量を増やそうとして失敗してきた。短期的な利益を求める多くの事業者が入り込み、景観や安全に考慮しない形で乱開発がなされた。また高コストで小規模な事業者が増え、電気料金の高騰も招いた。

 大分市のホテルから海の方を見ると、製鉄所、化学工場、発電所などが艦隊のようにずらりと並び、その手前に市街地が横たわっていて、重工業がこの町の発展の基軸であったことがうかがい知れた。それは過去から現在まで、多くの人々の営みがしのばれる、尊い景観だった。これから何十年かたつと、どのような景観になるだろうか。エネルギー政策のかじ取りを間違えず、九州発で世界に愛される製品をつくり続けていってほしい。