メディア掲載  エネルギー・環境  2018.09.28

温暖化対策に潜む安全保障のリスク ― ブラック・スワン

一般社団法人 日本エレクトロヒートセンター 隔月刊「エレクトロヒート」 No. 221 (2018) に掲載

要約 温暖化対策は1990 年代初頭以来、ユートピア的な世界観を前提として進められてきた。だがこの前提は今や完全に覆った。いま日本は現実を直視し、安全保障を優先課題とした上で、如何に温暖化のリスクを管理するかを考えねばならない。


1. ユートピア的な世界観を前提とした温暖化対策

 そもそも地球温暖化問題が政治的に注目を浴びるようになったのは、冷戦の終結による。1989年に東欧諸政権が崩壊し、1991年にはソ連が消滅した。それまでは、冷戦は永遠に続くかのように思われ、世界はいつ核戦争によって終わりを迎えても不思議はない、という陰鬱な雰囲気が支配していた。これがあっけなく終了した。フランシス・フクヤマが「歴史の終わり」と命名したように、世界を二分した巨大な敵対関係が消滅し、世界諸国は民主主義という価値を共有し共存共栄していくだろう、というユートピア的な雰囲気が 広まった。

 米欧日の優位は永遠に続くと思われ、途上国への開発援助・技術移転が必要だという認識が高まった。日本経済もバブル景気で絶頂期にあり、環境を含めた国際協力を強化し、そこでリーダーシップを発揮したいという国民的な願望があった。

 そのような雰囲気の中で、1992年にリオ・サミットで気候変動枠組み条約が、1997年には京都議定書が合意された。地球温暖化問題は、オゾン層保護問題と同様に、国際的に排出枠を割り当てる合意によって解決できる、と諸国の指導者は考えていた。この思想は継続され、政治的期待は2008年の洞爺湖サミットからオバマ政権誕生直後のコペンハーゲン会議(COP15)にかけて一旦頂点に達した。温暖化防止の目標を2度とする、このために世界規模で大規模排出削減をする、その中で日本の割り当て分として、2020年に△25%、2050年に△80%といった大規模な排出削減を行う、といった一連の目標を日本の政治家も提示した。さらに欧日はCDM等で、途上国の排出削減を資金と技術の両面で援助した。・・・


全文を読む

温暖化対策に潜む安全保障のリスク―ブラック・スワン