メディア掲載 グローバルエコノミー 2018.09.27
筆者が専攻する経済史という研究分野では、各国・地域の学会の国際的連合体としてIEHAが組織されている。IEHAは3年に一度、関連分野の研究者が世界から一堂に会する世界経済史会議という学会を開催してきた。世界経済史会議は3年前の2015年には京都で、そして今年は7-8月にボストンで行われた。
ボストンでの世界経済史会議は、約1500人の研究者が参加する大規模な学会となった。所得分配と格差への世界的な関心の高まりを反映して、トマ・ピケティー教授が招待講演を行って多くの聴衆を集めた。
同じ関心から、筆者は、IEHAの会長として「工業化と所得分配」に関するセッションを組織した。日本を含む世界の主要な国・地域で工業化が所得分配に与えた影響を経済史の視点から分析した論文が発表され、議論が行われた。その中で、ニューヨーク大学のロバート・アレン教授のコメントが特に洞察に富むものであった。
アレン教授は、所得分配を考える際にグローバルな視点が重要であることを強調した。19世紀にイギリスで起こった産業革命は、イギリスの人々の所得には労働者を含めて全体としてプラスの効果を持った。しかしグローバルに見ると、イギリスの産業革命は他の国々の経済にはマイナスの影響を与えた。特に伝統的な繊維工業が発達していたインドや中国は、イギリスの工業製品の流入によって繊維工業が壊滅し、低開発の状態に陥った。
アレン教授は、現在の所得分配についてもグローバルな視点が重要であるとする。アジアの工業化はアジアと欧米の間の所得格差を縮小させる一方、欧米諸国の内部では実質賃金を停滞させ、労働者と一部富裕層との間の所得格差を広げている。日本もこうしたグロ-バルな動きの例外ではない。