メディア掲載  エネルギー・環境  2018.09.20

猛暑・豪雨の地球温暖化との関係のホントとウソ

NPO法人 国際環境経済研究所HPに掲載(2018年9月6日)

 今年はどうやら猛暑で豪雨が多いらしい(本当は統計的に事後確認しなければならないけれど、よく聞かれるので、早々にこの記事を書くことにした)。ではこれは、温暖化のせいか? このままだと東京は水没するのか? それを防止するためにはCO2を8割削減しなければならないのか? 以下、何がホントで何がウソかを考える。


地球温暖化すれば猛暑が増える

 これはホントである。図1a)はその概念図。気温を横軸にして、頻度を縦軸にする(ここでの気温は、日平均気温、年平均気温、日最高気温など何でもよい)。地球温暖化により、はじめ実曲線で分布していたものが、点曲線のようにシフトしたとしよう。ある一定の温度より高くなる頻度(赤く塗ってある裾の部分)は、少し気温の平均値が高くなっただけで、かなり大きくなる。このことがよく、200年に一度の事象が、100年に一度になったり、50年に一度になったりする、と表現される。


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図1 気候変動と異常気象の関係

IPCC SREX report, Figure SPM.3

けれども、寒い日は減るので、異常気象が増えるとは言えない

 同じ図1a)から分かることは、地球温暖化によって異常に寒い日は減る。だから、暑い方の増大と寒い方の減少が差し引きされて、異常気象は全体として増えるとは限らない。なお図1b)や図1c)のように地球温暖化によって頻度分布の形が大きく変わるならばこの限りではないが、そこまで精密な議論は今のところ出来ていないと思う。


我々は温度上昇に適応してきた

 既に詳しく書いたことがあるけれども(「東京は3度温暖化したが何か困ったか?」)、東京の温度は過去100年で3度上がっている(図2)。都市熱で2度、地球温暖化で1度で合計3度である。だが我々は、何不自由なく暮らしている。平均寿命は伸びているし、都心で快適に暮らしている高齢者は沢山いる。この程度の温度上昇であれば、我々は単に慣れてしまうのだ。だから、今後温度上昇があるといっても、それほど怖れることはない。更に言えば、冬の寒さはやわらぎ、だいぶ暮らしやすくなったであろう。


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図2 東京の温度は過去100年で3度上昇した


我々は様々な温度に適応して生きている

 人間は4万年前にアフリカを出て以来、さまざまな気候に適応して生きてきた。日本国内でも、県によって温度は随分と違う(図3)。世界だと、この開きはもっと大きくなる(図4)。

 温度が少々上がったからといって、人が住めなくなることはない。東京の今の年平均気温は15. 8℃である。仮にこれがあと3度上がれば 18. 8℃になる。これは現在の鹿児島の18. 6℃に近い。ところが世界には20℃以上のところは沢山ある。いま長寿の世界1位と2位の国は香港とシンガポールで、どちらも大変に暑い。ベルリンは過去100年で2度温暖化したがそれでも東京より7度も低い。もっと暖かくなった方が住み易そうだ。


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図3 日本の県別平均気温

http://ww3.ctt.ne.jp/~seijiham/butai/shizen/kisho/kishmain.html

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図4 世界の年平均気温の分布

https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/climfig/?tm=monthly&el=TanmMIn

地球温暖化で豪雨が増える

 次は豪雨の話をしよう。

 地球温暖化で豪雨が増えるというのは、おそらくホントである。

 これは、温度が高くなると、大気中に含まれる水分の量が多くなるという関係(クラウジウス・クラペイロンの式と呼ばれる)があるためである(図5)。実際に、大気中の水蒸気量は増加していることが観測されている。これは温度上昇によるとみられる(図6)。直観的にも、夏は他の季節より豪雨が多いことから、納得感があるだろう。

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図5 温度と降水強度の関係

http://www.metsoc-hokkaido.jp/saihyo/pdf/saihyo59_new/2013-12.pdf

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図6 大気中の水蒸気量は増加している

https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/climate_change/2014/pdf/2014_2-2.pdf

前例のない豪雨が降る?

 これはウソである。

 ある地点を特定したときに(例えば東京で)、ある水準を超える豪雨の頻度が増えるのは本当である。しかしこのことは、未曾有の豪雨が降るという意味ではない。

 クラウジウス・クラペイロンの式で考える限り、2度温度上昇しても、東京よりあと2度高いところと同じ頻度になるまで豪雨が増えるだけだ。東京より2度以上高いところは日本にも世界にもいくらでもあるが、多くの人が住んでいる(図3、図4)。だから、東京に、人類が経験したことのない豪雨が降る訳ではない。ただし、東京に一定以上の豪雨が降る確率が高まる訳だから、土木工事や予報システムは、それに備えて強化しておいたほうがよい。


豪雨で災害が増えて破局的な事態になる?

 過去のトレンドとしては、一貫して、水害による死者数は減少してきた。図7の左縦軸が対数軸になっていることは、如何にこの減少が劇的であったかを示すものだ。この偉業は、この間、地球温暖化は1度進行した(諸都市では2~3度も温度が上がった)にも関わらず、達成された。治水事業や予報・警報システムの向上の賜物である。今後はAIやIOTを活用した予報・警報システムも充実して、更に死者数は減少するだろう。

 もちろん、極端な水害が起きるリスクは今でもあるし、地球温暖化による豪雨の増大でそのリスクは増大するだろう。だがそれで、この水害による死者数の減少という偉大なトレンドが逆転するような事態になるとは思えない。

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図7 水害による死者数は大幅に減少してきた


地球温暖化で東京が水没する?

 これはウソである。

 東京が水没するリスクは今でもあるし(何事もリスクゼロでは無い)、そして、地球温暖化による豪雨の増加や、海面上昇によって、そのリスクが増大するのは本当である。

 けれども、東京が水没するリスクがある最大の原因は、地球温暖化ではない。東京は、温暖化の有無とは関係なく、そもそも今でも水没危険地帯である。

 利根川は今では千葉県銚子市に河口があるが、昔は隅田川・荒川・江戸川の辺りを流れていた。人間が川の流れを付け替えたのである。このため、隅田川・荒川・江戸川の辺りは、もともと氾濫原だったのだ。温暖化で海面上昇が起きるといわゆるゼロメートル地帯(満潮時に海面よりも低い地帯)が増えるけれども、よく図8を見ると、実はもともとのゼロメートル地帯の方が、1mの海面上昇で増えるとされるゼロメートル地帯よりも遥かに広大であることが分かる(なお2100年の海面上昇は最大で80cm程度とIPCCは予測しており、1mには達しない)。

 加えて、高度経済成長期にかけては、工業用の地下水の汲み上げによって、最大で4.5メートルもの地盤沈下が起きた(図9)。これでさらに水没の危険は増した。しかしその一方で、この急激な実質的な海面上昇に対しても、人間は土木工事等で適応してしまい、東京は繁栄している。

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図8 1mの海面上昇によるゼロメートル地帯の拡大(環境省資料)

https://www.env.go.jp/earth/cop3/ondan/eikyou4.html

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図9 東京における地盤沈下

http://www.kensetsu.metro.tokyo.jp/jimusho/chisui/jigyou/teichi.html

結論


1) 地球温暖化で猛暑が増えるというのはホント。しかし、異常に寒い日は減るので、異常気象が増えるとは限らない。

2) 東京は過去100年で3度上昇したが何も困らなかった。また、世界には日本より3度暑いところはいくらでもある。だから、あと3度ぐらいの温度上昇であれば、日本が適応できないとは思えない。

3) 地球温暖化で豪雨が増えるというのはホント。だが、過去、地球温暖化は1度進行したにも関わらず、防災能力の向上により、水害による犠牲者は激減してきた。今後も防災努力を続けることで、このトレンドを維持できるだろう。

4) 東京が水没するリスクがあるというのはホント。このリスクが温暖化によって増大するというのもホント。だが何故リスクが大きいかという根本的な理由は、もともと東京が利根川の河口という水没しやすい場所に立地していたことと、過去の大幅な地盤沈下による。東京は、この大変な悪条件にも拘わらず繁栄を続けてきた。


 このように、「リスクがある」「リスクが増大する」といった言葉に惑わされずに、その具体的な意味を考え、人間がどの様にして適応できるかを考えるならば、地球温暖化はそれほど怖れることは無い。

 だからといって、CO2排出を全く削減しなくて良い、とは言わない。しかし、バランスが肝心である。地球温暖化によるリスクの増大はそれほど大きく無く、一定のコストで適応可能に思える。従って、経済を壊滅させても構わないからCO2を2050年までに8割削減しようといった極端な意見には、賛成しかねる。