メディア掲載  エネルギー・環境  2018.08.06

【人類世の地球環境】アフリカの奇跡・ボツワナの光と影

株式会社 オーム社 技術総合誌・OHM 2018年7月号に掲載

 ボツワナに来ている。首都ハボローネの会議場に缶詰めで1週間。会議に副大統領が来て全員起立3回、国歌斉唱、そして北部の秘境オカバンゴの観光案内。残念ながらこの国は日本より広く、オカバンゴは遥か彼方で今回は行けない。だが、このまま帰るわけにはいかない。

 近郊のサファリパークに行った。キリン、カバ、ワニ、インパラ、そしてサイ。サイは、まずピックアップトラックに乗って足跡を探す。大きな足跡を見つけたら、車を降りてそれを辿る。といっても、切れ切れになっていたり、草むらに入り込んだりしていて容易ではない。だが、そこはさすがガイドさんである。跡をつけていくとフンの山がある。だいたい40Lぐらいか。かなりデカイ。生々しく光っていて、コバエが山ほどたかっている。「これは新鮮だからサイは近くにいる」と言う。ワクワク追跡していくとサイがいた。相当デカイ。動物園で見てもデカイには違いないが、こちらも生身だと迫力満点である。

 ここで槍でも繰り出して倒したら格好良いのだが、とても勝てる気がしない。我らのご先祖様でもサイを倒すには苦労したであろう。

 こうして狩猟を疑似体験した。我々が失った能力をガイドさんは持っている、と思って助手席を覗いたら、移動中はスマホで遊んでいた...。実は、我々と大して変わらないのかもしれない。

 このサファリパークは以前は放牧地で、その後、5,000haを観光用に整備したものだ。だが、中にいると、まるで古来から灌木の茂る大草原だったとしか思えない。人造湖を作って1992年に開始して以来、あらゆる動物をボツワナ国内や南アフリカから運んできた。絶滅危惧種の白サイも連れてきた。言ってしまえば広大な動物園であり、手つかずの自然ではなく、人が管理している自然である。でも、筆者はそれで良いと思う。動物は生息して数を増やしている。こうして生息域が確保されることが、多様な生物の繁栄のために役に立つ。放牧地もバイオエネルギーもあって良いけれど、それで土地を一色に塗り潰さない方が良い。

 首都の中心部は広い道路を車が行き来して、人通りは少ない。少し郊外に出ると、平坦な大陸の彼方に地平線が広がり、灌木が多く生えた牧草地がどこまでも広がる。半乾燥域だが、雨季が終わったばかりのせいか、ちょっと埃っぽいが青々としている。幹線道路には時々穴が開いているが、ドライバーは120kmでブンブン飛ばす。まるでカナダの大草原のような風景である。

 翌日は、都内の某町長さんに人口2万5千の町を案内してもらった。ボツワナはダイヤモンドの輸出がある一方で、人口は200万と少ないので、1人当たりの所得は高く、中所得国にランクされる。だが、庶民の暮らしはとても貧しい。

 8畳くらいの小さな部屋に3~8人が寝る。ちょうど昼でママが料理をしていた。鍋にはメイズ(トウモロコシの粉)の粥が沢山、牛肉のシチューと玉ねぎ炒めがほんのちょっと。どう見ても栄養が足りない。6歳くらいだと思って子供に声を掛けたら何と12歳だった。旅行会社の少しリッチな男達は肉ばかり食べてメイズは食べない。子供の時から散々食べたので嫌になったそうだ。

 町長さんは良い人で、皆に声を掛ける。おばあちゃん、子供、精神病患者、アル中、エイズ患者、皆と握手。筆者も握手。商店の女将に「今、何が欲しい?」と聞いたら、率直に「お金」。毎月の収入が1万円、家賃がその半分、スマホが2千円。それで子供の授業料2千円が大変とのこと。町長さん曰く、これが払えず学校に行けない小学生が3割いるという。スマホと衛星放送はある家にはあるが、普通の家は洗濯機もエアコンもない。そのうち朝からビールのご機嫌男が寄ってきて、「貧しくてサッカーのゴールがないから買ってくれ」などと言い出したのでお暇する。

 町長さんの収入は8万円だが、4万円は「皆のため」に使う。毎日、小学校に行くお金をくれ、と子供達が押し掛けるとのこと。これを汚職とは呼び難い。

 ダイヤモンドの利益分配等、政治体制には皆不満があるらしいが、反抗はご法度らしい。現状では、工場は少なく、ケチャップやサンダル等の日用雑貨まで南アフリカや中国から輸入している。1つ関心したのは町にゴミがないことで、これは10年前から全国キャンペーンを行って以来そうなったという。中国もかつては、地方は貧しく、都会から20年は遅れていた。ボツワナも、いつか皆が豊かになりますように。