メディア掲載 エネルギー・環境 2018.07.18
地球温暖化について、ニュースなどで繰り返される「公式見解」と言えば、「地球温暖化は、既に異常気象を引き起こしており、悪化の傾向にある。これを防ぐには、太陽光発電などを導入し、石炭や石油などの利用によるCO2排出を、大幅に減らさなければならない」といったものであろう。そして、政府は2050年までに、CO2などの排出を80%も削減することを目標にしている。だが、この公式見解はかなり間違っている、というのが筆者の見解だ。
温暖化は人間にとって危険か
地球温暖化が起きており、化石燃料の燃焼によるCO2が、その原因のひとつであることは確かである。しかし、CO2がどの程度の温暖化を引き起こすのかは、良く分かっていない。
温暖化の将来予測には、シミュレーションが使われてきた。けれども、実は、これは過去の自然変動もいまだ、十分に説明できていない。そして、かつては急激な温暖化が起きるという予測があったけれども、実は、これは外れていて、過大な予測だったことが、近年の観測との比較ではっきりしてきた。そこで、シミュレーションに頼らずに、過去の観測データから経験則を作り、それで、将来を予測する方法も提案されている。この予測では、さほどの温暖化は起きない。
それでも、ある程度は温暖化が起きる。では、それはどの程度、危険なのだろうか。これも、シミュレーション計算によって予測され、温暖化には、さまざまなリスクがあると主張されてきた。だが、シミュレーションとはしょせん、人間や自然という、極めて複雑な対象の、ごく一部を切り取って単純化して扱うことしかできない。シミュレーションは、将来についての洞察を得るための道具としては有用だけれども、その結果を、額面通り予測だと思ってはいけない。
気候も自然も、絶えず変わるものである。そして、温暖化が起きるといっても、それは、過去の自然変動と比べて大きいものではない。温暖化程度の変動にさらされることは、実は、自然にとっては、ごくありふれたことに過ぎない。約1万年前まで続いた氷期には、気候は激変を続けていて、福井県の付近は、何度もシベリア並みの気候になった。生態系というのは、そのような洗礼を浴びつつ繁栄してきた、実にしたたかなものだ。
そして人間は、自然を大規模かつ急激につくり変えてきた。人間は、4万年程前から、大型動物の大半を絶滅させ、森林を焼き払って草原をつくり、農業で地上の景観を根本から変え、コンクリートで都市を覆った。そして、北極圏、高山、砂漠など、あらゆる場所の気候に適応してきた。この人間活動のスケールに比べれば、温暖化による環境の変化は、小さなものだ。だから、人間は充分に適応できる。東京は、過去100年に3度温度が上昇した(温暖化が1度で、都市熱が2度)。だが、誰も困っていない。この程度のペースであれば、それと気付くことすらなく、人間は単に慣れてしまう。
CO2削減をどう進めるか
ということで、それほど、温暖化の悪影響を心配する必要は無い。だが、どの程度、温度が上昇するのか、良く分かっていないこともあるので、安全サイドを取れば、CO2の排出は減らした方が良い。
しかし、いま政府がやっていることには、大いに問題がある。政府は、太陽光発電を大量導入してきた。これは、わずかなCO2削減と引き替えに、69兆円もの無駄使いになった。つけとして、電気料金は上昇し、経済に悪影響を与えている。
では、政府は何をすれば良いのか。CO2を大幅に減らそうと思ったら、相当に革新的な技術が必要である。そして、実は、その希望は大いにある。というのは、現在も急速に進行しているAI(人口知能)、IOT(物のインターネット)、ICT(情報通信技術)、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーなどの技術進歩は、今後も加速度的に進み、これは、CO2削減のためのコストも、大幅に低下させるからである。コストさえ下がれば、温暖化問題は解決する。
では、このシナリオが実現する条件は何か。革新的なCO2削減技術は、科学技術全般が進歩しないと生まれようがない。例えば、AIの活用でCO2はかなり減らせる。だが、このためには、もちろん、まずAIが実現している必要がある。
そして、科学技術全般の進歩は、経済成長との好循環においてのみ実現する。だから、政府が温暖化対策を行うとき、経済を衰退させて、技術進歩を妨げてはいけない。もちろん、基礎的な技術の研究開発など、政府がしなければならないことは、いくつもある。だが、実は、政府は「余計なことをしない」というのも、大事な点である。
この見解は、経済政策としては、何ら新しいものではない。自由経済のイノベーション能力に信頼を置き、政府は裏方に徹するというのは、計画経済との闘争を通じて人類が学んだ、最も賢明な官民の役割分担である。実は、これが温暖化問題の解決策としても正解となる。