コラム  国際交流  2018.07.02

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第111号(2018年7月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 6月1日、イタリア大使館から本国の祝日(Festa della Repubblica Italiana)を祝うレセプションにお招きを頂いた。欧州各地で政情不安が頻発するなか、大衆迎合的な政党(MoVimento 5 Stelle (M5S))と極右政党(Lega)が台頭する本国政治に関して意見交換をしようとしたが、大使館の美しい日本庭園とお祝いムードにふさわしくないと感じ話題を途中で変えた次第だ。そして今月中旬の再会時に改めて政情に関して尋ねようと考えている。

 米欧のポピュリズムに関し、歴史的視点から現況を論じたバリー・アイケングリーンUC at Berkeley教授の新刊書(The Populist Temptation: Economic Grievance and Political Reaction in the Modern Era, 次の2を参照)は、大変興味深くアッという間に読了した。裏表紙に錚々たる研究者--L. Summers、A.S. Posen、D. Rodrik、R. Rajan--の賛辞を載せた同書を通じて、トランプ大統領の愛読書がアイン・ランドの『水源(The Fountainhead)』である事を恥ずかしながら初めて知った(またティラーソン前国務長官及び後任のポンペオ氏の愛読書は共にランドの『肩をすくめるアトラス(Atlas Shrugged)』らしい)。
 ランドと言えばアラン・グリーンスパン元連銀議長だ。アイケングリーン教授の著書にも、2人の共著書(Capitalism: The Unknown Idea)が出てくる。そう言えば連銀議長の回顧録(The Age of Turbulence)にはランドの名前が15回も登場し、"Ayn Rand became a stabilizing force in my life"と、更には"Ayn Rand and I remained close until she died"と記されていた。米国の友人に筆者が「連銀議長と大統領との間にランドの愛読者という共通点を探すのが難しい」と語ったところ、彼は「大統領の愛読書が『水源』だって?!! 見栄を張ってそう言っているだけだよ!」と応えたので思わず吹き出してしまった。
 アイケングリーン教授同様、ポピュリズムに厳しい判断を下しているのは、アラン・ブラインダーPrinceton Univ.教授だ。小誌(本年1月号)で触れた本(Advice and Dissent: Why America Suffers When Economics and Politics Collide)の中で教授は、「経済学に関する知識の欠如が蔓延した今日、怪しげな経済解説者の陰謀と押売りに対して、大衆民主主義は痛々しい程に脆弱である(With economic illiteracy as widespread as it is today, a popular democracy is painfully vulnerable to the self-serving machinations and hucksterism of economic snake-oil salesmen)」と語っている。その一方で教授は自省の念も忘れることなく、「我々経済学者は、英語をより多く使い、専門用語をより少なく使う必要があり、少なくとも我々が公論に携わる時はそうすべき(We economists need to speak English more and techno-speak less--at least when we're out in public)」と述べている。

 世界中に拡散するポピュリズムに対し如何なる態度を採るか。欧州では、独仏のリーダーシップに期待しているが、現地の友人達に話を詳しく聞くには事前に最低限の知識が必要だ。このためThe Economist紙(4月12日号)の特集記事(Where Does Germany Go from Here?)の中で触れられたヘアフリート・ミュンクラーHumboldt- Universität教授による"話題の本"(Die neuen Deutschen: Ein Land vor seiner Zukunft, 2016)を読み始めたところだ。

 さて小誌前号に記した国際会議(International Conference on Robotics and Automation (ICRA))で、日本の組織がbest paper awardを受賞した事を喜んでいる(Preferred NetworksがHRI(Human-Robot Interaction)部門で、また東京大学がUAV(Unmanned Aerial Vehicles)部門で)。また他部門(Automation、Service Robotics、Multi-Robot Systems、Medical Robotics等)で受賞した組織--ETH Zürich(チューリッヒ工科大学)、Google、Univ. of Michigan、Harvard等--の動きにも注視している。日本の将来を考える上で、友人達と共にこの分野での国際競争に目を離さないでおきたい。

 最後にアジアに目を向けてみても、中国と朝鮮半島に関し情報があふれ出ており頭の整理が大変だ。

 現在、米中間貿易戦争と東アジア安全保障に関する情報が噴出している。こうした状況のもと筆者は中国の中長期展望に関し論点整理を行っている。例えばHarvardのウィリアム・オーヴァーホルト氏は、年初に発表した著書(China's Crisis of Success, Cambridge University Press)の中で3つのシナリオを描いている--即ち①Reform Failure/Japan Scenario、②Leadership Fracture、③Gradual Democratization, Likely a Variant of the Japan Political Model。いずれも部分的に日本の有為転変における長所・短所を参照している。彼が来日した際、直接疑問点を質す機会が楽しみだ。留意すべきは、彼が同書の中で記したように、いずれのシナリオにしても"善悪二元論的に(in Manichean terms)"に考えないことだ。



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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第111号(2018年7月)