メディア掲載  グローバルエコノミー  2018.02.13

西部邁氏を悼む

共同通信より配信

 先月、元東京大学教養学部教授で、退職後に「保守」派の論客として活発に言論活動を展開した西部邁さんが急逝された。 

 筆者は学部学生時代、西部さんが他の2人の教授(内田忠夫氏、杉浦克巳氏)と共同で行っていた少人数のセミナーに、1回だけ顔を出したことがある。

 内容は忘れたが、私の幼稚な議論に真摯かつ丁寧に応じていただいたことをよく覚えている。それは西部さんが『ソシオエコノミクス』という本を出版した少し後のことで、セミナーでも、価格等の経済現象において慣習、文化、宗教といった、通常の経済学の視野に入らない要素の重要性を力説されていた。

 その後30年以上、筆者は西部さんと接点を持たなかったが、2013年に、日本経済研究センターの「エコノミストの戦後史」という企画で、西部さんにインタビューをさせていただいた。

 インタビューの中で西部さんは、「アベノミクス」を厳しく批判された。いわゆる「三本の矢」がまったく異なる経済理論・経済思想、すなわちマネタリズム(金融緩和によるインフレ率の引き上げ)、ケインジアン(財政出動による有効需要拡大)、シュンペータリアン(構造改革によるイノベーションの創出)に基づいているという点である。

 また西部さんは、自分がその立場をとる「保守」の意味を、「長い歴史が残しているに違いない『歴史の知恵』」を守ることであると述べた。人々は歴史の中でさまざまな成功や失敗を繰り返しきており、その経験を通じてある種の平衡感覚を身につけている。それが「伝統」であるという考えに基づいている。

 西部さんは今では数少ない知識人らしい知識人であった。日本が多くの点で難しい選択に直面している今日、西部さんの急逝は大きな損失である。