メディア掲載 グローバルエコノミー 2018.02.09
東京大学に入学した学生は最初の2年間、駒場の教養学部に所属して教養教育を受けた後、本郷の各学部・学科に進学して、専門教育を受ける。教養学部の学生が、本郷の各学部・学科に進む際の手続きは「進学選択」と呼ばれる。各学部・学科にはそれぞれの学生定員があるため、希望者全員を受け入れるわけにはいかない。そのため、進学選択は学生にとっても各学部・学科にとっても、非常に重要な意味を持つ。
この手続きについて、本年度から大きな改革が導入された。その一部に「受け入れ保留アルゴリズム」という、新しい方式が導入されたことである。
この方式は、アメリカの経済学者、デービッド・ゲールとロイド・シャプレーが提案した、マッチング(組み合わせ)の決め方である。
具体的な手順は紙幅の関係で省略するが、本質的な点は、この方式を用いることによって「安定性」と呼ばれる望ましい性質を持つマッチングが実現できることである。安定性というのは、ある学生や学部・学科が、実現したマッチングの結果から逸脱しても、より高い満足を得ることはできず、その意味で最適なマッチングになっていることを意味する。
こうした性質を持つことから、受け入れ保留アルゴリズムは、アメリカでは、公立学校と志望者のマッチング、研修医と研究先病院のマッチング等に応用されている。
日本では経済学の応用対象として、金融政策等のマクロ分野の政策がまず考えられがちであるが、ミクロ経済学も、制度を設計する際の強力な手段となる。受け入れ保留アルゴリズムはその好例である。卒業後に社会で指導的な役割を担うであろう東京大学の学生が、自分に直接関わる問題として経済理論の応用を経験し、その意味を真剣に考えることの意味は大きい。