メディア掲載 財政・社会保障制度 2018.01.18
本誌でコラムを連載する機会を頂戴した。まず自己紹介と本連載の目的をお伝えしたい。
1975年に大学を卒業し生命保険会社に入社した私が医療政策研究を始めたのは、88年4月に九州大学経済学部「保険学講座」(国立大学初の寄付講座)の客員助教授に任命されたことが契機になっている。任期の2年間で本を書く決意をしてテーマ探しのため紀伊国屋書店の書棚を半日かけて眺めて、医療政策に関する本が西村周三著「医療の経済分析」(87年、東洋経済新報社)1冊しかないことに気づいた。これは研究テーマの大穴だと直感し、当時京都大学経済学部におられた西村先生を訪問して新規参入の挨拶を行い、勉強の仕方を教えていただいた。
そして90年に「米国の医療経済」(東洋経済新報社)を出版。米国の診療報酬包括支払い制度や介護施設の経営リスク構造と経理基準などを解説していたため、厚生省(当時)に何度か呼ばれた。その時のメンバーは後に事務次官、局長になった方々である。
生命保険会社を99年3月に退職する直前の仕事は年金ファンド運用である。バブル経済崩壊以降の日本株暴落低迷が仕事上の悩みだったが、政策の誤りの繰り返しで社会保障制度が近未来に維持できなくなる危機感が日々強まっていた。そこで、政策提言をするため富士通総研に転職、2002年に「人口半減:日本経済の活路~年金・医療・教育改革と地方自立~」(東洋経済新報社)を出版した。その趣旨は、「将来人口が半分になるとしても社会保障制度の財源を年金から医療介護福祉にシフトさせケアサービス提供体制の改革を行えば大丈夫」という点にある。この主張は現在でも全く変わっていない。
その後、医療法人事務長と公立病院顧問などを経験し、09年4月にキヤノングローバル戦略研究所に入った。現在最大の研究テーマは、財政破たん時の医療介護福祉制度の再構築である。講演会で医療経営者から「政府と日銀は一体なのだから日銀が買った国債を燃やせば借金はなくなる」という珍説を聞かされた。しかし、図のとおりわが国の財政はすでに構造的に破たんしている。次に起こるのは「国が国債発行したくても買い手が全くいない国債の札割れ」である。これは25年頃までには起こると予想されている。当然医療機関は大混乱になるが、診療所は相対的に危機対応力が強い。経営環境の構造変化を解説しながら、その理由についても言及する。
(出所)IMF国際通貨基金公表データから著者作成