論文 エネルギー・環境 2017.11.22
まず本稿の要約を述べる。地球温暖化対策の解決に向けたイノベーションのためには、政府の積極的な介入が重要とされてきた。すなわち、太陽電池等の有望技術を特定したうえで、研究開発補助や再エネ全量買取り制度等の技術開発政策を実施することが広く行われてきた。この理論的根拠となってきたのは、「イノベーションシステム論」であった。だが近年のICT等のイノベーションを観察すると、温暖化対策技術のイノベーションにとってより実効性が高いのは、対象を特定した政府の技術開発政策ではなく、科学技術全般の進歩であることが強く示唆される。この状況を記述する適切な枠組みは「複雑系理論」であり、これに立脚すると、まったく異なる政策的示唆が得られる。すなわち、温暖化対策技術のイノベーションを起こすためには、科学技術全般のイノベーションが重要であり、後者は経済成長との好循環において実現される。ゆえに、温暖化対策は、経済成長と調和する形で実施することが、長期的な実効性の鍵となる。
なお、本稿はキヤノングローバル戦略研究所のワーキングペーパーとして発表した原稿に若干の修正を施したものである。・・・