メディア掲載  エネルギー・環境  2017.11.14

【人類世の地球環境】省エネの「情報経済学」とIoT

株式会社 オーム社 技術総合誌・OHM10月号に掲載

 IoTとは何か。IoTとは単にモノにセンサと通信機器を付けて終わり、というものではない。その真価は、センサと通信機器によって、モノがクラウドに接続されビッグデータが蓄積され、クラウド上の人工知能等の莫大な情報処理資源を活用して、設備の導入から運用に至るまでのサービスを提供することにある。対象とするマーケットは、エネルギー・資源、産業、金融、公共サービス、福祉、消費財等、あらゆる分野にわたる。

 IoTで省エネが進む理由は、まずは、無駄を省き効率を高めるからである。人間の運転は下手で、空ぶかしや急ブレーキをするが、自動運転ならばそのようなことはないので、燃費は改善する。省エネ以外にも、IoTで情報の入手と活用が容易になり、様々な無駄を省ける。空き家や空き室は多いので、Airbnb(エアビーアンドビー)などの民泊サービスができた。タクシーは客を探すため流しで多く走っているが、最近はGPSを活用したスマホで呼べるようになり、雨の日でも捕まえやすくなった。世の中、無駄は多い。食品は3分の1が廃棄されており、薬は半分以上の人が飲み残し、服の多くは一度も着ないで捨てられる。こういった無駄に着目し、それを減らすビジネスがこれからどんどん出てくるのだろう。

 省エネに話題を戻す。IoTは、単なる効率改善を超えて、はるかに大きな省エネをもたらすと期待できる。なぜか。

 研究者の間では、儲かるはずの省エネ投資でも実現しないことが知られてきた。例えば、計算上では3年で元が取れる、つまり省エネによって浮く光熱費が3年で設備投資額を上回るような投資でも、実施されない場合が多くあった。

 この理由はいくつかあるが、最も重要なことは、省エネに関する情報を収集・分析し、省エネの機会を見つけて実施するといった一連の情報処理をするための人件費が高くて、省エネによる便益に対して見合わなかったことによる。この「情報コスト」がIoTで大幅に下がることによって、これまで見送られてきた省エネ機会が、魅力あるものになる。具体的な省エネ技術自体は、昔から知られているものでも構わない。ここでのポイントは、情報コストが下がることで、そのありきたりの技術利用への障壁が低くなる、というところである。

 またIoTによって、企業が「モノではなくサービスを売る」、すなわちモノを活用したサービスに対して対価を受け取るようビジネスモデルが変わる、という点も、省エネに大きく寄与しうる。

 モノではなくサービスを売る先駆的事例としては、GEの航空エンジン、ミシュランのタイヤ、ボッシュのマイクロセンサー搭載機器、フィリップスのLED照明が知られている。いずれもモノを売って終わりではなく、サービス提供の契約を結び、IoTによって製品の使用実態をトレースして、製品使用段階についての情報を収集し活用する。企業と顧客が近くなり、企業と顧客の便益を共に増すために資源の無駄が減り、この一環で省エネも行われる。サービスの販売のためには、性能や故障のモニタリングが必要で、リサイクルには製品や部品のトレースが必要だったが、これはいずれもIoTでコストが大幅に下がった。

 省エネについては、もう1つ面白い視点がある。それは、企業は消費者よりも省エネに熱心なことである。消費者ではなく、企業が省エネの担い手になると、その構造変化だけで、省エネが進むと期待できる。というのは、消費者は目先のお金を気にするので、省エネのような息の長い投資をしないからだ。消費者の方が企業よりセッカチなことは、消費者金融の金利が、銀行から企業への貸出金利よりかなり高いことに端的に表れている。

 フィリップスはLEDによる照明を、電気代込みのサービスとして販売している。一般の消費者は、たとえ光熱費が安いと分かっていても、高価な照明機器にはなかなか手を出さない。だが、大きな企業であれば、同じだけのサービスを提供するために、高価な照明機器を使用した方が、設備寿命全体で見て総コストが安くなる、という計算ができる。

 省エネの重要な課題が「情報のコスト」であり、IoTがまさにその情報のコストを下げるものである以上、省エネが進まないはずがない。日本では、省エネというと実務が先行していて、情報の経済学を用いた理論化は、一部の省エネ研究者の間で知られてきたに過ぎない。だが、理論化をしておいたおかげで、現在進行中の様々なIoT利用事例を見通し良く整理できそうだ。望むらくは、それが新たなビジネスのヒントになればなお良いのだが・・・。