コラム 国際交流 2017.11.07
9月下旬にロンドンで開催された製薬分野でのAIの適用に関した国際会議に出席した(Artificial Intelligence in Drug Development Congress)。その際、AIの技術的問題だけでなく政治経済的な問題も議論の対象となった。
例えば①個人情報の問題-欧州の個人情報保護規制(General Data Protection Regulation (GDPR))とBig Dataを利用する創薬との関係、②法制度の国際的差異-①のGDPRで法的制約を受ける欧州企業と、そうした法的制約を何ら受けず、同時にBGI(华大基因)等の研究機関と深い関係を持つ中国企業との国際競争条件の差異、また③Brexit問題-現行の域内共同研究(例えばeTRIKS)が、英国のEU脱退によって先行きが不透明になること、以上3点を中心に筆者は意見交換を行った。
ロンドンでの会議を終え、ケンブリッジ大学を訪れた筆者は皮肉を交えて友人達に次のように語った。 「The Economist誌は8月に"英国メイ内閣は(Brexitという)不都合な真実を認め始めた(Theresa May's government begins to accept some inconvenient truths)"と記していたよ。Globalizationに関しボクが最も尊敬する研究者の一人が英国のスーザン・ストレンジだ。この才人の智慧をメイ首相は継承しなかったのではないのか? 君達は海洋国(a maritime nation)たる英国は島国(an island nation)の日本とは違うと、これまで自慢をしてきたが、今は英国も島国になってしまったかもね?」、と。
バリー・ブザン(London School of Economics (LSE))教授は現在の国際関係を"乱雑な連結関係(promiscuous interconnections)"と称している(小誌2015年12号参照)。確かにglobalizationは乱雑で時として不愉快な現象だ。しかし、好むと好まざるとにかかわらず不断に深化するglobalizationに対し背を向けていると、時の経過とともにglobalizationに"追い着く"ためのエネルギーは一層大きくなる。これに関してブザン教授は、ソ連の革命家レフ・トロツキーの警句を引用している --「(グローバル化を睨んだ痛みを伴う構造改革である)外的必然性の鞭のもと、立ち遅れは飛躍を強いられる(Под кнутом внешней необходимости отсталость вынуждена совершать скачки.)」、と。
昨年のBrexitを巡る国民投票の後、ノーベル文学賞受賞者カズオ・イシグロ氏は、7月1日、Financial Times紙に警鐘を鳴らした(小誌2016年8月号を参照)。彼はブザン教授と同様、de-globalizationがたどり着く結末、即ち"外的必然性の鞭(a whip of external necessity)"を打たれる後進性を予感したのだ。イシグロ氏や日露戦争直後から早くも「一等国日本」という慢心に対し警告した夏目漱石等の優れた作家は、筆者のような凡人とは異なる"大局観"を具えているのかも知れない。
さて中国の習近平体制は、「新時代中国特色社会主義思想」を以って新たなスタートを切った。世界中の平和と繁栄を米中両国が協力して促進することを願っている。中国共産党第十九次全国代表大会の直前、10月4日に米中間でサイバー空間における一定の合意がなされたが、勿論、これに関して賛否両論が併存している(U.S.-China Law Enforcement and Cybersecurity Dialogue (LECD))。そうした情勢のなか筆者は"a cyber cold war"を警戒する人民解放軍海軍(PLAN)の姿勢を不安視している(≪当代海軍≫ No. 288掲載の記事、次の2を参照)。
このような状態であっても我々は希望を捨てず、最先端の情報通信技術(ICT)を、"意識的"に人類の平和と繁栄の目的"のみ"に利用する制度を確立すべきである。これに関して興味深い見解を、StanfordからGoogleに移った北京生まれのAI専門家である李飞飞( Fei-Fei Li)氏が述べている。
MIT Technology Review誌の最新号の中で、彼女はインタビューに答えて"人間サイド(の幸福)"を重視したAI開発を主張している(AI特集号である11月・12月号)。またこの記事のインタヴュアー(Senior Editorのウィル・ナイト氏)は、AIの開発に関して米中両国が為すべきなのは、対立ではなく協力だと語っている(次の2を参照)。
日本の研究者達も人類に幸福をもたらすために、こうした米中両国をはじめ世界の研究者集団に積極的に参加してくれることを期待している。