コラム 外交・安全保障 2017.11.06
2年ごとに開催される韓国最大の防衛産業展示会である「Seoul ADEX」が、10月17日から22日の日程で開催された。場所は韓国大統領が外国訪問の際に政府専用機に搭乗するために利用する軍用のソウル空港(京畿道・城南市)である。今回はこれまでで最も規模が大きく、世界の33カ国、405社が参加し、1700の展示ブースが設置された。国民日報の報道(10月22日)によれば、今回の開催期間中に約28万人(一般観覧者は19万7000人)が来場した。展示会では179億5100万ドル規模の輸出相談と8億9300万ドルの契約と覚書(MOU)が締結されたとのことである。
17日の開会式には文在寅大統領が出席し、内外の参加者を前に祝辞を述べた。この中で筆者が注目したのは下記の部分である。
(参考①)文在寅大統領祝辞(一部抜粋)
第三に、内需型防衛産業から輸出型グローバル防衛産業に発展しなければなりません。私たちの視野を世界に広げて友好国と防衛産業協力共同体を構築しなければなりません。韓国軍だけを供給対象とする兵器体系開発から脱して、安保協力国家と先端兵器体系を共同で企画、開発、運用していくシステムを拡散させていかなければなりません。さらに、開発した兵器体系を世界市場において共に販売することも可能です。こうなると、国防費削減はもちろん開発段階から市場の確保が可能となります。
政府は防衛産業の輸出産業化を実現するために外交的努力をさらに強化します。 また、兵器システム輸出が輸出にとどまらず、韓国軍の運営経験の共有にまでつながるように助けることです。韓国政府のこのような意志は協力国家の国防力の強化と共に世界平和にも貢献することになると思います。(青瓦台ホームページより・筆者仮訳)
韓国政府がここ10年の躍進を支えてきた装備品輸出だけでなく、友好国との共同開発を積極的に行う方向性を明確にしたことは明らかである。今回の展示会に合わせるように、17日には炭素繊維加工メーカーの韓国カーボン社とイスラエルの大手航空機メーカーであるIAIが、無人機生産のための合弁会社KAT(Korea Aviation Technologies)の設立書に署名した。両社は無人機の共同開発体制を構築していくという。無人機開発は大手航空会社大韓航空を中心に、韓国防衛産業が今最も力を入れている分野の一つである。
筆者自身も10月18日・19日の二日間本展示会に参加した。日本以外での防衛産業展示会に参加することは初めてだったため、内容、規模共に他の展示会と比較できないが、各国企業の屋内ブース、屋外の韓国軍装備品が一同に展示された立派な展示会であった。また、目玉イベントの一つである米空軍F-22の展示飛行を間近に見ることができたのも貴重な経験だった。一部報道では、F-22が主役になり韓国軍よりも米軍が目立っていたとの指摘や、「F-22の機動飛行と惨めな韓国軍需産業(中央日報10月20日付)」という自虐的な題名の記事も散見された。筆者個人としては、①韓国空軍の曲芸飛行チーム「ブラックイーグルス」の技術力が相当高かったこと、②自国製の装甲車や戦車からジェット戦闘機や無人機まで、多くの幅広い品目を揃えていたことが興味深かった。会場内で多くの新興国軍関係者がこれらの韓国製装備品を興味深く視察している様子が印象的であった。
(参考②)展示会の様子(筆者撮影)
本展示会は、初日の内外メディア対象のPress Day、17日から20日までの内外の防衛産業関係者が来場するBusiness Dayに加え、20日を小中高・大学生を対象に新たに設けられたStudent Day、21日・22日の週末をPublic Dayとしてそれぞれ一般の参加者にも公開された。Student Dayでは、学生対象に航空産業に関する授業も行われた。こうした地道な教育・広報活動は長期的な防衛産業育成の観点から重視されたものと思われる
なお、次回の本展示会は、2年後の2019年10月15日から20日までの予定である。