コラム  国際交流  2017.10.06

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第102号(2017年10月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

 ドイツで連邦議会選挙と国際マラソンが行われた9月24日、筆者はベルリン出張を終えてロンドンへと飛び立った。翌朝、選挙の結果を知るために新聞(Frankfurter Allgemeine Zeitung (FAZ))のウェブサイトを開くと、目に飛び込んで来たのは驚くべきタイトルだった--„Schock fürs System ((ドイツ国家)体制の衝撃)"。

 メルケル首相は勝利したとは言え、極右政党(Alternative für Deutschland (AfD))による連邦議会への進出を許したのだ。FAZ紙は、隣国ルクセンブルクのジャン・アセルボーン外務・欧州大臣の言葉「戦後70年を経て再びネオナチが独連邦議会に登場(70 Jahre nach Kriegsende sitzen wieder Neonazis im Bundestag.)」を引用し、また在独ユダヤ人中央評議会(der Zentralrat der Juden in Deutschland (ZdJ))が、戦後における"民主主義最大の危機(größte demokratische Herausforderung)"が訪れていると警告している事を伝えている。そして今、小誌4月号の編集後記で触れたドイツ中間層に出現した新右派に関する本(Bürgerliche Scharfmacher: Deutschlands neue rechte Mitte--von AfD bis Pegida)を思い出している。

 テスラ社のイーロン・マスク氏やグーグル・ディープマインド社のムスタファ・スレイマン氏をはじめ116人のロボット産業関係者は、小誌前号で触れた国際会議(IJCAI)の際、特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)に関連する自律型ロボット兵器(lethal autonomous weapons systems (LAWS))について公開書簡を提出した。

 この関係者の中には日本の広瀬茂男、北野菜穂の両氏が含まれており、彼等の趣旨はすぐれて尊重すべきものだ。だが、Defense News等の軍事技術関連の情報を眺めている者の一人として、残念ながらLAWSをはじめハイテク兵器の開発禁止は難しいと考えている。米国ヴァージニア州クワンティコで9月中旬に開催された会合(Modern Day Marine Military Expo)で、米国海兵隊の高官とランド研究所の研究者は、軍事関連の技術競争で米国が中国に遅れをとってならないと警告した。こうしたなか中国資本による欧米ハイテク企業買収の動きを各国の関係者が注視している。またプーチン大統領も、9月初旬、人工知能(иску́сственный интелле́кт (ИИ))を開発した国が"世界を支配するであろう(станет правителем мира)"と語り、「他国にこの独占的権利を許す訳にはいかない(Я действительно не хотел бы, чтобы эта монополия была сосредоточена в чьих-то конкретных руках)」と述べたとのこと。かくしてハイテク軍事競争が世界中に蔓延する危険が出現している。

 ダイナマイトの発明者(A・ノーベル)しかり、核分裂の発見者(O・ハーン)しかり、科学技術はその発明者・発見者の意図せざる形で用途を軍事・非軍事に拡大させる。ハーンは1931年に「科学的予言--近い将来或いは遠い将来のために? (Wissenschaftliche Prophezeiungen--für die nahe oder die ferne Zukunft?)」と題する文章の中で、「ごく少量の放射性物質が、諸科学分野や臨床医学に対し測り知れない利益をもたらす」と語った。だが、残念なことに歴史は、ハーンの予言を超え、人類が核分裂の知識を通じて強力な兵器を開発した事を教えている。これに関しハーバード大学が7月に発表した報告書は熟読すべきものと考えている("Artificial Intelligence and National Security," Harvard Kennedy School (HKS))。

 米朝間で"復讐心を煽る(wave the bloody shirt)"言葉の応酬がなされているが、これが現実の戦争に繋がらないよう願っているのは筆者だけではあるまい。地政学的に近い国であるものの、筆者は『労働新聞(로동신문)』紙をはじめ北朝鮮の公開情報は言うまでもなく、また独自の非公開情報ネットワークも持っていないため、一般市民として、"専門家"と言われる人々の見解に耳を傾けつつ、ひたすら平和を祈る事しか出来ない。

 小誌7月号の冒頭で触れた米中関係に関する本(Destined for War)の著者、ハーバード大学のグラアム・アリソン教授は、2005年2月17日付のLos Angeles Times紙上で"核拡散という妖怪(The Specter of Nuclear Proliferation)"と題し、極東の核化を予想した。その時、韓国空軍パイロットとしてソウル上空の防衛を担当し、またピョンヤンへ人道支援のために食糧(米)の運搬を担当した経験を持つ韓国出身の学友とともに、米国のケンブリッジで教授の予想が外れることを願ったことを、思い出している毎日だ。

 9月中旬に行われたロシアの大規模軍事演習(«Запад-2017»)に不安を感じる欧州でも、北朝鮮の核開発は、それがテロリストに流れる危険性が高いため関心が高い。正確な情報収集の重要性を改めて痛感している。



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