ここ数年、夏になると楽しみにしている大学生との交流の場がある。日中両国の大学生がそれぞれ約20人ずつ、計40人程度の学生が参加する交流プログラムである。中国人の学生は、中国本土から参加する学生が多いが、日本の大学に在学中の留学生も加わる。
このプログラムは2012年9月の尖閣諸島領有権問題を機に最悪の状態に陥った日中関係を何とか改善するために、自分たちでも何かできないかと考えた当時の大学生が2013年にスタートさせた。
すべて学生自身が自主的に計画し運営する素晴らしい活動である。彼らの強い熱意に応えて、日本を代表する製造業、サービス業、金融機関、メディア、学者、経営者、政府機関などが協力している。
夏の交流プログラムは毎年8月後半、1週間強の期間で、東京をベースに企業訪問や工場見学を通じて日本企業の経営に対する考え方、中国ビジネスの現状、中国に対する見方などを学ぶ。
参加者は日中両国の学生を組み合わせた数人が1組になったグループに分かれ、グループごとに行動する。夜は宿舎で企業訪問から学んだ内容を整理して意見を交わす。
加えて、日中双方の学生が相手の国の社会生活の実情、歴史認識、領土問題、文化的な土壌の違いなどをテーマにフランクな意見交換を行い、互いの共通点や相違点を肌で感じ合う。
参加メンバーが高い問題意識を共有し合うことにより相互に啓発され、様々な議論を通じて相互理解が進み、誤解に基づく偏見や差別の意識が消えていく。相手国に対する認識が変わり、自身の生き方に対する意識が高まり、国境を越えた熱い友情が育まれる。
プログラムの最後の方では各グループがこのプログラムから学んだ成果を整理して、参加者および講演・企業訪問などで協力してくれた企業関係者ら全員の前でグループごとにプレゼンテーションを行う。
そのプレゼンは、日中参加者同士の相互理解・尊重・啓発によって得られた大きな感動、そして、この交流での経験を活かして日中両国の相互理解促進のために貢献したいという高い志にあふれる内容だ。
今年は筆者の日程の都合が合わず、プログラム本番に伺えないため、つい先日事前研修の場で十数人の大学生・留学生を対象に、中国経済動向や日中関係のあり方について私の見方をお伝えし、それを踏まえて、今後日中両国のために何を実践したいと思うかについて全員から思いを聞かせてもらった。
中国人留学生の日本語能力の高さにも驚かされたが、日本人、中国人の区別なく、参加者全員が自らの問題意識や具体的な目標を明確に持っていることは期待を大幅に上回った。
以下、参加者の発言の一部を紹介する。
「日本で働き日中の懸け橋になりたい」(中国人)
「日本企業で中国と関係のある仕事をしたい」(日本人)
「日中関係の中だけにいると居心地がよすぎるので、自分自身へのチャレンジとしてイタリアに留学することを決めた」(中国人)
「大好きなお姉さんが北京に留学することにしたので、同時期に1年間北京に留学した」(と語った日本人女学生の中国語は見事な発音だった)
「中国に留学したいと親に相談したら強く反対されたため、とりあえず台湾に留学することを決めたが、いつか中国に行きたい」(日本人)
参加者全員の誰一人をとっても高い問題意識を持っており、それのみならず留学、職業選択、日中学生交流プログラムへの参加、同プログラムの主催・運営など、具体的な実践行動を伴っている。
「知行合一」は大人でもなかなか実践できないが、彼ら、彼女らは自らチャレンジの道を選択し、しっかりと実践している。実に頼もしい存在である。
一般的には、最近の大学生や企業で働く若い世代は内向き志向が強く、海外留学、海外勤務を嫌い、チャレンジには消極的で、自主性が乏しいという評価を耳にすることが多い。
私自身は毎年、日中学生交流プログラムで多くの大学生に出会うほか、一部のメンバーとは彼ら・彼女らが就職した後もたまに放談会の場をもって、親しく交流を続けている。現役、OB・OGを問わず、問題意識の高さと実践行動を起こしてチャレンジする前向きな姿勢にはいつも感激させられ、大きなエネルギーをもらっている。
彼らの活動ぶりを見ていると、世の中一般の大学生や若手社員に対する評価とのギャップがあまりにも大きい。
若い世代が内向きだと批判的な評価をする見方の背景には、若い世代のそうした自主性やチャレンジ精神を見ようとしていない姿勢があるのではないかと疑いたくなる。おそらく事実はその中間にあるのだろうが、若い世代を十把一絡げにして一面的な見方をすべきではないことだけは確かである。
上記の大学生の活動とは全く異質であるが、日本ではあまり知られていないもう1つの若い世代の日中交流の動きを紹介したい。
中国の中高生、大学生を中心に日本のアニメソング(アニソン)のファンが年々着実に広がっている。この数年、夏休みの季節に、日本のアニソンのグループが上海でコンサートを開催している。
数年前に初めてコンサートを開いた時には聴衆はわずか800人だったが、今や収容者数1万数千人のメルセデス・ベンツ・アリーナが満員になる盛況ぶりだ。
驚くのはそのコンサートの中身である。ほとんどの聴衆は10代の中国人学生だが、言葉はすべて日本語がそのまま通じる。
それのみならず、日本人の歌手が歌うアニソンの1曲1曲に合わせて会場全員が一体となって歌い、ペンライトを振り、拍手と歓声を送る。どれ一つをとっても日本国内のコンサートと全く同じ反応である。
昨年歴史的大ヒットとなったアニメの主題歌を歌い有名になったグループも今年7月に上海で初めてのコンサートを開いた。中国ではこのグループはあまり知られていなかったうえ、有名な曲は映画の主題歌しかなかったことから、コンサートの集客状況、各曲への聴衆の反応の不安など多くの心配材料があった。
しかし、当日になるとコンサート会場のメルセデス・ベンツ・アリーナは満員、しかもオープニングからエンディングまで、歌った本人たちが驚くほど、中国人の10代の聴衆はすべての曲をよく知っていて、素晴らしい反応だった。
そのグループはコンサート終了後、中国の聴衆が見せた、予想をはるかに上回る素晴らしい反応に心から感動したと語ったそうである。
日本のアニソンのコンサートに来る中国の若者たちはマナーもいい。米国や韓国のポップスなどのコンサートの場合、聴衆は入場前にきちんと列に並ばない、会場では椅子の上などに上がって飛び跳ねるなど無秩序な若者が目立つことが多い。
これに対して、日本のアニソンのファンは同じ10代の若者であるにもかかわらず、対照的に列を作って並んで入場し、コンサートの大興奮の中でもルール違反の秩序を乱す行為は見られない。これは日本のアニメが持っている文化的影響力なのではないかというのが関係者の見方である。
こうした日本のアニメやアニソンが大好きな中国の中高生は非常に多い。彼らは知らず知らずに日本語を習得し、話したり歌ったりできるようになる。
それによって日本を理解し、日本が好きになり、日本に留学する中国人学生は少なくない。彼らが日本人の同世代の学生と話せば、アニメやアニソンですぐに意気投合できる。ここにも日本ではあまり知られていない日中交流の絆を強める場がある。
日中学生交流プログラムを通じた知的な交流も、アニメやアニソンを通じた心と文化の交流も、その主体は10代から20代前半の若い世代である。この世代に日中の国境はない。あったとしてもその壁は極めて低く、すぐに心と心の融和ができる。
日中関係の改善に消極的な人たち、あるいは若い世代の内向き傾向に不安を抱く人たちは、この若い世代の素晴らしい日中交流を自分の目で見て理解し、時代の変化を感じてほしい。
日中学生交流プログラムの事前研修に参加した女子大生が、中国に留学したいという希望を両親に許してもらえず、それでも将来いつか中国に行くと語ってくれた言葉を忘れることができない。
両親がわが子のことを想い、アドバイスをしてくれたことは疑う余地はない。しかし、日中間には相互理解と相互信頼も生まれている事実が理解されていれば、アドバイスの方向も違ったかもしれない。
近い将来、学生たちの親の世代の人々が若い世代の心の絆の結びつきを理解して、新たな時代の到来を感じてほしいと強く願う。
若い世代のエネルギーは歴史認識も領土問題も乗り越えて、相互理解と相互信頼に基づく新たな日中関係を切り拓く。これからの日中両国を担う若い世代のますますの交流拡大にエールを送り続けたい。