コラム  エネルギー・環境  2017.08.29

台湾の大停電をもたらすエネルギー政策に関する考察

 8月15日、台湾において、大規模な停電が発生した。対象地域の全世帯の半数にあたる668万世帯に影響を与え、復旧までに5時間以上を要した。停電の原因は、発表によれば、発電所の燃料供給会社従業員の不注意によるミスにより天然ガスの供給が一時中断したためであり、1999年の大地震や2015年の強い台風などのような自然災害ではないとのことであった。本稿では、台湾の電力システムがなぜこのような単純なミスで崩れてしまうような脆弱性をもつようになったのかについて検討してみたい。

 台湾全域の電力供給を担う国営事業者「台湾電力公司」の公開したデータを分析すると、今回の事件は偶然によるものではないようにも見える。図1と図2には、電力需要のピークに対して、供給の余力を示す「発電設備容量予備率」が示されている。まず図1の年間推移から、2010年代に入ってから、この予備率が25%近くから急速に低下し、昨年は10%まで下がっている。また、図2で昨年から事件発生前日の8月14日までの日変動をみると、夏場には予備率が常に5%を割っており、事件発生前の一週間(8/7-8/11)に至っては平均2.4%、最小値1.72%となっており、バランスはぎりぎりのところで保たれていた状態にあったことが分かる。このような状況でミスが発生したのであり、緊急事態に対応しきれないことはいわば当たり前であった。ちなみに、今回のアクシデントで一時的に発電できなくなったのは、総設備容量の約9%にあたる4.38GWであった。



図1 発電設備容量予備率の年間推移

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(台湾電力公司のデータにより筆者作成)

図2 発電設備容量予備率の日変動

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(2016/1/1~2017/8/14、台湾電力公司のデータにより筆者作成)

 このような脆弱な状態が生まれた原因は、近年のエネルギー政策にも求められる。2008年に策定された基本政策では、石炭から天然ガスへのシフトと同時に、再生可能エネルギーと原子力の一次エネルギーに占める割合を2007年の9%から2025年に18%に引き上げることが明記された。しかし、2011年の福島第一原発事故の影響で脱原発政策に転換し、さらに昨年、2025年原発ゼロビジョンが打ち出された。このビジョンにより天然ガス50%、石炭30%、再エネ20%の電源構成を目指すことになった。そのため、原子力発電所については2015年に引き続き、昨年と今年1基ずつ停止させ、現在全体の半数である3基しか稼働していない。加えて、天然ガス発電所建設の遅れもあり、結果として、設備容量が増えたのは風力と太陽光のだけであった(表)。天候の影響に左右される不安定な電源の割合が増えたことで予備容量が少なくなり、予備率の低下につながったのである。



表 台湾の発電設備容量(MW)

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(経済部能源局と台湾電力公司のデータから)

 エネルギー政策の基本は、安全性を確保するという大前提のもと、安定性、経済性及び環境性、いわゆる3Eのバランスをとることである。台湾において発生した大停電事件は、環境性を追及するあまり、安定性の重視が足りなかったとも言えるのである。