論文 国際交流 2017.08.24
要旨
〇 中国では2008年下期の経済刺激策を契機に債務が急増している。とくに増加が目立つのは地方政府と国有企業の債務で、近年、その持続可能性が強く懸念されている。2013年末以降、同国共産党指導部と中央政府は問題解決に向けた取組みを強め、債務実態の把握、債務者の返済負担軽減、金融機関の不良債権処理促進等の政策を次々と打ち出している。
〇 具体的には、中央政府による地方政府会計の実地検査、債務の借換え容認やデット・エクイティ・スワップの推奨、地方ベースの不良債権買取り機関の設立等の措置が、全国で展開されている。但し、全体の債務規模が膨大で、問題を抱える債権・債務者が多岐に亘っているうえ、中央・地方政府ともに経済・社会の安定を政策運営上の最優先課題としていることもあり、債務削減のペースは緩やかなものに止まっている。
〇 経済成長速度が鈍化したとはいえ、中国各地の建設投資需要は依然として大きく、資金需要は根強い。一方で、国内の貯蓄も増え続けており、企業や個人が手元余裕資金をハイ・リターンで運用したいという意欲は強く、それがシャドーバンキングの拡大、ひいては地方政府や企業の無理な資金調達を容易にしている面がある。より根本的な問題として、中国政府や金融機関が提供する様々な「暗黙の保証」が同国の金融・不動産バブルを支え続けている、との指摘もある。
〇 現政権は、経済制度改革の目標の一つに、「資源配分において市場に決定的な役割を担わせる」ことを掲げている。当該目標の達成は、「暗黙の保証」に支えられた不合理な債務の増加を止めることにつながるものと期待できるが、今のところ、その道筋は具体的にみえていない。市場メカニズムの活用に関しては、デフォルトや破産をルールに則って実現させてゆくことも重要との指摘がある。
〇 本年7月に開催された全国金融工作会議では、習近平・共産党総書記兼国家主席が重要講話を行い、金融の実体経済に対する貢献を強く求めるとともに、金融リスク防止の重要性を強調した。後者については、政策重点課題として、金融機関のコーポレートガバナンス改善やマクロプルーデンス体制の強化、金融機関及び市場モニタリングの重視等が目標として列挙された。会議では、国務院金融安定発展委員会の設立を軸とする金融監督制度の改革も提案され、今後の具体的進展が注目されている。
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