長期的な視野で地球温暖化に取り組んでいこうという議論が、国内外で進められています。温暖化対策やエネルギー利用を考える上で重要な視点についてお話をうかがいました。
(2017年5月29日インタビュー)2015年末のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択されたパリ協定を踏まえ、日本政府は2016年に策定した地球温暖化対策計画で、2050年までに温室効果ガスを8割減らす長期的目標を示しました。このような大規模な削減目標を達成する上で、「電化」は重要な手段となります。私は最終エネルギー消費に占める電力の割合を「電化率」と定義していますが、この「電化率」が高くなるほど、CO2濃度が低くなることは、世界の研究者間でほぼ共通した認識だと思います。電化率は、世界中の多くの国で上昇してきていますし、この傾向は今後も間違いなく進むでしょう。
電化を進めるとともに、発電時のCO2排出量を抑えること、つまり「電気の低炭素化」を図ることも重要です。ただし、電気の低炭素化を急ぐあまり電力価格が上昇し、電化率の向上を妨げる事態は避けなければなりません。欧州では、再生可能エネルギーの大量導入や電力自由化の影響などにより、過去10年ほどで電力価格が全般的に上昇し、いくつもの国で倍増しました。日本でも、再エネの全量買取制度(FIT)で高い買取価格を設定したため、再エネ賦課金による国民負担の増加を招いています。
温暖化だけではなく、経済やエネルギー安全保障も考え、バランスのとれたエネルギーミックス(電源構成)を実現していくことが、電化率を高める点でも、長期的な温暖化対策としても有効です。再エネは、導入コストが下がり電力系統への影響を解消する技術も開発されたタイミングで大量導入するのが妥当でしょうし、電力価格の抑制と電気の低炭素化が両立できる原子力の再稼働は、可能な限り進めた方がよいでしょう。
さらに大きなCO2削減を狙うには、人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)を活用した省エネ技術の開発といったイノベーション創出が不可欠です。炭素税などカーボンプライシングの導入も議論されていますが、規制や税制で企業を縛り過ぎず、経済を活性化し、民間の力で科学技術全般を進歩させて温暖化を解決することが、日本に求められている役割ではないでしょうか。